2026年9月14日

ニューヨーク発東京行きの飛行機にて

 10日間の滞在を終えて、いよいよアメリカからの帰国日。朝早く空港に行く必要があるため、アメリカの現地スタッフが「おいしくないですよ」と言っていたホテルのバイキングで朝食を済ますことにした。ベーグルを半分にカットしてトースト。そこにクリームチーズとブルーベリージャムをたっぷり塗って、コーヒーと共に胃の中に流し込む。コーヒーは、街のカフェで飲むコーヒーとは違う、昔ながらの薄いアメリカンコーヒーだ。ベーグルを食べ終わると、固くゆでた卵に塩をふってモグモグと食べた。

 現地スタッフが言ったように、確かにおいしくはない。日本で言えば、コンビニのおにぎりをペットボトルのお茶で流し込むようなものなのかもしれない。だけど、そんな味気ない朝食も異国でその国のスタイルで食べると、感慨深くなる。僕は朝食をとりながら、二十数年前に初めてアメリカを訪ねたときのことを思い返していた。

 あのとき、僕は生まれて初めてベーグルを食べた。デリでサーモンやハムを挟んで食べるベーグルに感動し、モーテルの無料の朝食で食べる、トーストしてジャムを塗るだけのベーグルも悪くないと思った。あのときは、すっかりハマって日本に帰ってからもベーグル屋を見つけると買っていたんだよな。

 あれから何回かアメリカを訪れたけれど、その度に変化と発見があった。アメリカで起こることの多くは、その後日本にもやってくる。それもデジタルだけでなく、アナログレコードやカセットテープの復権に、Zineやリトルプレスの普及から、サードウェーブコーヒーなど、アメリカで見て面白いなと思ったことが、その後日本でそのまま普及していくのをよく見る。好むと好まざるとにかかわらず、いまだに日本はアメリカの影響を受けているのを実感する。

 そんな中、今回のアメリカの旅で何より実感したのは、ここ数年で思った以上に日本文化が普及していることだった。最もわかりやすいのはアニメやゲームなどのキャラクターで、至るところで、ポケモンから鬼滅の刃、ちいかわのTシャツやグッズを身につける人たちを見た。それも子供や若者に限らず、大人でも身につけている人がいる。もともとアメリカでは、大人向けと子供向け、さらに言うと、人種においても好みがはっきり分かれているイメージがあったんだけど、日本のキャラクターは、そんな壁を超えて愛されているように見える。

 さらに、「かわいい」だけじゃない。今回のキャラバンイベントでそれぞれのスタッフが用意してくれたBGMでは、アメリカやイギリスのミュージシャンの曲に混ざって、はっぴーえんどや竹内まりやなどのいわゆるシティポップや、高中正義、YMOなどの曲が頻繁に流れていた。僕らが日本人だから、気を使って流しているわけではない。音楽好きのスタッフが作成したいつものプレイリストを流しているのだ。僕が中学生の頃にヒットしたYMOの『君に、胸キュン。』を、2026年のアメリカで聴くのはなかなか不思議な体験だった。実際、街を歩いて見つけたレコードショップでもよく日本のレコードを見つけた。さらに、食やファッション、アートなどでも存在感を高めているようにも見える。

 80年代、日本の自動車やオーディオ、家電製品がアメリカを席巻し、経済的な影響力が高かった頃は、文化面での影響力はとても少なかった(特にポップカルチャーという側面から見ると)。だけど、経済的な影響力はあの頃に比べると劇的に下がっているのに、日本からの文化的な影響力が高まっているのは不思議なことだと思う(詳しい訳ではないけれど、個人的には最近のアニメのクオリティーが20、30年前と比べて劇的に高まっているとは思えないし、シティポップはそもそも50年前に作られたものだ)。

 その流れは、ステーショナリーの領域においてもそうで、シカゴの会場のPaper&Pencilでも、ニューヨークのYoseka Stationeryでも、日本製のステーショナリーがたくさん並んでいるし、それを興味深そうに手に取るアメリカ人で溢れている。その様子は、新しい日本カルチャーとしてステーショナリーが受け入れられているかのようだ。

 象徴的だったのは、かつては日本製ステーショナリーをほとんど並べていなかったアメリカ最大の書店バーンズ&ノーブルと、独立系書店のシンボルのような老舗書店・ストランドブックストアの両方に、ミドリをはじめとした日本メーカーの文具が並んでいたことだった(残念ながらトラベラーズノートはなかったけど)。日本製にどれだけ意識的なのかはわからないけれど、特別な売り込みをしていなくても、それらの店舗から自然とオーダーが来るくらい日本のステーショナリーがアメリカに浸透しているのを今回のアメリカ滞在で深く実感した。

 アメリカでのイベントは、パートナーショップでの開催となったこともあって、お客さんもスタッフの方もとても温かく穏やかな空気の中で開催することができた。初めて会ったばかりなのに、気心の知れた友人みたいにノートを見たり、話をしたりして、本当に楽しい時間を過ごすことができました。参加いただいた皆様にはとても感謝しています。

 だけど、同時にあまりに快適で温かい雰囲気にちょっと刺激を求めたくなったのも事実で、次はカフェやホテル、音楽フェスなどを会場に、ステーショナリー以外のところとコラボレーションしたり、車に荷物を積んで、ドサ回りみたいに小さな町を巡ってみたり、トラベラーズらしいイベントを開催してみたいとも思った。そういえば、アメリカでの最初のイベントは、DJがガンガン音楽を流している、ACE HOTEL NYのロビーだったんだよな。

 空港に行くためにホテルをチェックアウトして、タクシーに乗ると外に大粒の雨が降ってきた。アメリカでは10日間過ごして、はじめての雨だ。その雨が、旅の間に一度も降らなかったことの幸運に気づかせてくれた。。雨に煙るニューヨークを眺めながら、またこの国に戻ってくるのを心の中で誓った。次はお互いどんな変化があるのだろう。

 ニューヨーク・ラガーディア空港発、東京・羽田空港行きの飛行機にて。


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