みんなちがってみんないい
思春期の頃から、ずっと音楽が好きだった。音楽が孤独を癒し、心を奮い立たせ、何かに感動する喜びを教えてくれた。音楽に救われて、なんとかこれまでやってこれたとすら思っている。ただ、僕が好きなのは、主に洋楽のロックだったから、その言葉の意味をよくわからないまま聴いてきた。そのメロディーや楽器の音やボーカルの声を聴くことで、僕は孤独を癒やしたり、心を奮い立たせたりしていた。
だけど、何度か聴いているうちに、たとえばどこかのフレーズの英語が聴き取れて、グッと感動が深まることがある。たとえば、デヴィッド・ボウイの「ロックン・ロールの自殺者」という曲がある。アコースティックギターをバックに物悲しく語りかけるように始まり、後半はドラムにホーンやストリングスが入り盛り上がって終わる。歌詞がわからなくても、その名曲然としたドラマティックな展開に、しみじみと感動しながら聴いていた。
タイトルに「自殺者」なんて言葉が入っているから、聴きながら自殺してしまった人を嘆く歌なのかと思いながら何度か聴いていくうちに、曲の後半でドラマティックに転換するところで「You’re not alone」という言葉が聞き取れた。すると、その後「Give me your hands, because you’re wonderful」と連呼して終わっているのがわかる。それだけで、一気に感動が深まり涙が出てくる。そこで、なんとか歌詞の意味を知りたいと、そこではじめて当時持っていた輸入版CDの英語の歌詞カードを訳す。そこでこの曲が伝えようとするメッセージを知る。あのドラマティックな展開にも意味があることを知ってこの曲にさらに感動する。
僕の好きなバンド、ザ・スミスにはそんな曲が多い。たとえば「Unloveable」という曲がある。ディレイのかかった美しいギターが繰り返し奏でられる、甘美な曲調なのだけど、「I know I'm unloveable(自分が愛されない人間なのはわかっている)」というフレーズで始まる。まあ、スミスらしい自虐的な曲なんだな、という感じで何度か聴いていると、「If I seem a little strange. That’s because I am.(もしも僕は少し奇妙に見えるのなら、それが僕だからとしか言いようがない)」というフレーズに気づく。ここで僕はこの曲への共感度がさらに深まるのだ。
さらに改めて歌詞を調べてみると、「I know that you would like me, If only you could see me.(もしも君が僕に会うことさえできたら、君が僕を好きになるのはわかっている)」というフレーズが続いている。ここで使われている「would」と「could」が過去形なのは、英文法でいうところの仮定法過去というやつで、現実にはありえないことを想像するときに使うということを知ると、さらに切ない気持ちが深まるのだ。
つまり何が言いたいかと言うと、英語を完全に聞き取れないのに洋楽を聴いている僕にとっては、メッセージは後からやってくるものだということ。曲調やメロディーで好きになった曲が、その歌詞の意味を知ってさらに深く感動し、それまで以上に好きになることがよくあるのだ。その逆が少ないのは、メッセージはメロディーや曲調を形作るものでもあるからなのかもしれない。
ここで話は変わりますが、先週トラベラーズノートの2027年版ダイアリーの情報を公式サイトにアップしました。ダイアリーには、毎年テーマを設けているのですが、今年は「Every TRAVELER’S notebook is unique and that’s wonderful」としました。トラベラーズノートは使う人によって違うから、すばらしいという意味になります。
このことは、イベントやトラベラーズファクトリーで、皆さんが使うトラベラーズノートを見て僕自身ずっと感じていたし、愛用者同士がその違いを楽しそうに共有する姿を見てきました。使うことによって変化することこそが、トラベラーズノートが多くの方に愛される理由になっていると思っています。今回、このテーマに決めた理由は、20周年を迎えトラベラーズノートの本質的なテーマにしたいと思ったのが一番の理由ではありますが、同時に世界がその逆の方向に向かっていくことに危機感を抱いていたからでもあります。
同じことを何度か書いていますが、僕はトラベラーズノートはすべての人たちに受け入れてもらえるようなものではないと考えています。このちょっと変わった革のノートを使いたいと思ってくれるのは100人のうち一人くらいしかいないはずです。そんな人の中には100人に一人であるがゆえに、生きづらさや孤独を感じている人もいるかもしれない。だけど、その百分の一がトラベラーズノートを通じて共感したり、つながったりできたらいいなと思っています。トラベラーズノートという共有の道具があれば、それぞれの違いが、違和感ではなく新たな発見をもたらす喜びになる。イベントやトラベラーズファクトリーは、そんな人たちが安心して繋がれる安全地帯のような場所でありたいのです。
たとえば、誰かの音楽が、人種や国籍、宗教、世代、年齢などさまざまな価値観を超えて人々の心をひとつに繋げることがあります。甘い考えかもしれないけれど、そういうものが世界にもっとあれば、もっと世界は平和になると思っているし、トラベラーズノートもそういう存在になってほしいと思っています。
こんなことを書いておきながらも、そんなメッセージは知らなくても、純粋にデザインが素敵だから、便利だからと思って使っていただくだけで僕らは嬉しいです。僕もメッセージに関係なく好きな曲だってたくさんあります。その理由はともかく、誰かが何かを好きであることを認め、尊重することもまた「Every TRAVELER’S notebook is unique and that’s wonderful」が意味することでもあります。だけど、後からさりげなく、そのメッセージに共感していただけたら嬉しいです。
トラベラーズノートの2027ダイアリーは9月10日より発売になります。また、トラベラーズファクトリー中目黒、エアポート、ステーション、京都では、今年は9月10日~9月13日の期間は抽選予約販売という形をとらせていただきます。ご面倒をおかけして申し訳ありませんが、なにとぞご理解のほどよろしくお願いします。
また、ダイアリーの情報アップとあわせて、今回も「Every TRAVELER’S notebook is unique and that’s wonderful」をテーマにしたプレイリストを作成しました。これを楽しみにしてくれている方はごくごく少数ではあると思うのですが、そんな少数の好きも大切にしていただけると嬉しいです。ちなみにここで紹介したデヴィッド・ボウイの「ロックン・ロールの自殺者」やザ・スミスの「Unloveable」も入っていますので、ぜひ。