2026年9月24日

CARAVAN USA

 先週月曜の夕方にアメリカから戻ると、その翌日は朝から会議。けだるい体に鞭を打って会社へ行く。その後も時差ぼけをねじ伏せるように毎日仕事をしているうちに、アメリカでの日々はすっかり過去の記憶になった。旅気分も抜けて日常が戻ってくると、トラベラーズノートの革カバーから外されたリフィルのように、記憶のアーカイブに収まる。そのことに旅が終わってしまった寂しさを感じるけれど、あらためて旅を振り返る楽しさもある。

 会社では、インスタの画像を見たスタッフから「楽しそうでしたね」と何度も声をかけられるから、「インスタだから楽しそうなところを切り取ってアップしているんだよ。大変なこともあったんだから……」と言い訳がましくとぼけてみせた。会社での立場上そんなことを言ったけど、正直に言えば、ぜんぶ楽しかった。

 そりゃそうですよ。気心の知れた仲間と旅をして、旅先のパートナーショップのスタッフたちは温かく迎えてくれて、トラベラーズノート愛たっぷりのお客さんがたくさん足を運んでくれて、話をしたりする。さらにおいしいものをたっぷり食べて、旅の夜には仲間とお酒を飲みながら、熱く語り合う。

 子どもの頃に僕は、「男はつらいよ」の寅さんがやっている、全国の祭りを巡りながら露店でものを売るテキヤに憧れていた。今回の旅は、まさにノートを売るためにアメリカを旅するテキヤみたいだったな。寅さんみたいに、風の吹くまま気の向くままに、というわけにはいかなかったけれど、寅さんだったらきっと恋に落ちているだろうな、と思えるような素敵な方とも出会うことができた。そりゃ、楽しいに決まっている。

 少しでもニュースを見れば、今のアメリカには数多の問題があるのは分かるし、わずか2つの都市を10日間程度旅をしただけで、アメリカが分かったなんて言うつもりもない。今回、イベントを開催したシカゴのアンダーソンビルとニューヨークのブルックリンは、どちらもリベラルな町でチェーン店よりも個性豊かな独立系の店が多く、人種も多彩でLGBTQにも寛大。滞在中は、その町の住民のような気分で快適に過ごすことができた。イベント会場は、まさに2027年のテーマのように、さまざまなバックボーンを持つ人がトラベラーズノートが好きという共通の価値観とともにひとつの場所に集まる姿を見ることができた。それってやっぱり素敵なことだと思う。

 シカゴのイベントで、「またアメリカに来てくれてありがとう」と書かれたカードを僕に手渡してくれたお客さんは、「LAから車で来たの」と言って、スマホを取り出して僕に見せてくれた。そこには、旅の途中に見つけたかっこいいモーテルやダイナーの写真などがあった。「どれくらいかかったんですか?」と聞くと、「1週間。ずっと運転してきたから腰が痛いわ」と答えた。

 シカゴは、アメリカのマザー・ロードと呼ばれた歴史的な大陸横断道、ルート66の起点であり、終点でもある。このイベントにあわせて、ルート66を辿るロードトリップをしようと、ロサンゼルスからやってきてくれたのだ。写真には、2年前のアメリカのイベントとあわせて作ったUSA Road Trip バージョンのトラベラーズノートが写っていて、トラベラーズノートが旅のきっかけになっているのも嬉しかった。

「明日からまた1週間かけて帰らないといけないんだけどね」と、彼女は苦笑しながらも、どこか楽しそうに言った。その言葉を聞いて、僕らもトラベラーズワゴンに乗ってルート66を走りながら、ところどころでイベントをやって旅をしたら、最高だろうな、なんて想像をした。

 売れないロックバンドみたいに、モーテルに泊まりながら車で旅をして、町の集会場やダイナーなんかで、ノート作りのイベントをする。彼女は西海岸からシカゴまで1週間で来られたけれど、イベントをやりながらだから1ヶ月くらいはかかるかもしれない。それこそ、寅さんみたいに、風の吹くまま気の向くままに、面白そうな場所があれば道を外れて、寄り道をする。

 ワゴンには小型の箔押し機や製本機を載せて、簡易工場にしよう。途中で限定カバーや限定リフィルを製作することもできる。旅の途中で意気投合した地元の独立系書店やレコードショップなどと急きょコラボするなんてこともあるかもしれない。旅先で出会ったインディアンジュエリーのアーティストにチャームを作ってもらったり、アメリカン・キルトでノート用のバッグを作ってもらったり。旅をするほどに、商品も充実してくる。

「明日はここでやるよー」とSNSで告知して、ゲリラ的にあちこちでイベントを開催する。ときには、地元のブルースバンドとコラボイベントなんてこともできたらいいな。さらに地元のダイナーに一夜だけのトラベラーズダイナーになってもらえたら最高だ。トラベラーズチェリーパイとかトラベラーズバーガーみたいなオリジナルメニューを作ってもらう。トラベラーズワゴンは旅を続けるにつれて町の自動車整備工場でカスタマイズを重ね、車内は快適になり、馬力はアップする。

 以前、コラボレーションをしてもらったイラストレーターでエッセイストの沢野ひとしさんに、僕が書いた『旅とノートの日々』をお送りしたら、一編の詩のような素敵なコメントをXに投稿してくれた。

「この本が旅そのもの 
 旅は人を育て、人の行かないところが旅の醍醐味
 綺麗な旅のノートより汚れている手帳」

 まさにそうだと思う。僕自身もそうだけど、トラベラーズノートは仲間と一緒に旅をすることで成長してきたし、行き先はちょっと変わったところがいい。旅をするたびに、革のカバーに旅の思い出が傷やシミとなって刻まれ、それがまた新しい旅へと誘ってくれる。

 次のアメリカへの旅は、もっと楽しい旅になりそうだな。