2026年1月19日

風に吹かれて

 調べたいことがあってXを見ていたら、アンチAIの人がけっこういて、AIの画像生成で作られた広告などを晒して炎上させるAI警察みたいなことをしているのを知った。さらに、それに対するアンチ(つまりAI肯定派)も多くいて、お互い対立している。だけど、争いが嫌いな僕としては、その論争に加わる気はない。ただ、どっちもなんだかなあ、と思うだけだ。

 今まで何度か書いているけれど、個人的にはAIには懐疑的だし、特にクリエイションに活用することにポジティブなイメージはない。AIを少しいじってみても、使えるなと思うのはちょっとした画像加工や簡単な文章の校正くらいで、少なくともものづくりの根幹においては今はまだ使える気がしないし、今のところ使うつもりもない(もちろんAIについて詳しいわけではないし、あくまでも主観的な意見です)。だけど、好むと好まざるにかかわらず、世の中にAIで作られた制作物は増えていくだろうとも思っている。

 AI登場以前からフォトショップなどの画像加工ソフトで画像を加工するのは、当たり前になっている。広告やアート作品から、インスタにアップされる個人の写真まで、世の中に発信されるほとんどの画像は何らかの加工が施されている。物の見え方や陰影、色合いを変えるだけでなく、あったものを消したり、なかったものを足したりすることだって、普通に行われているはずだ。なので、厳密にいうと、世の中にある写真には、すべて嘘が含まれているとも言えるし、発信する方も受け手側も、ある程度それを分かった上で共有している。

 昔、画像加工のソフトを使えるようになったとき、ふと思い立って香港に行ったときにデジカメで撮影した写真を加工した。スターフェリーが留まる発着場の建物に記された「STAR FERRY」をちまちまとマウスを動かしながら、「TRAVELER’S FERRY」と描き変えた。それだけでもうトラベラーズのフェリーが香港にあるような気分になって、ひとり悦に入りながら写真を眺めた。

 その後、本当にスターフェリーとコラボレーションすることができて、橋本がオフィシャルにTRAVELER’S FERRYのロゴをデザインして、ノートやチャームを作った。そのときのワクワクした気持ちは、ちまちまと遊ぶように描き変えた画像の延長線上にあった。

 あのときは、時間をかけてTRAVELER'S FERRYの文字を写真に書き込んでいったのだけど、AIだったらもっと簡単に文字の書き換えができる。下の写真は、上の元画像をAIにアップして、ブイに記された「THE STAR FERRY Co., Ltd」を「TRAVELER'S FERRY Co., Ltd」に書き換えるよう指示してできた写真。違和感はそれほどない。ただ、後ろに重なっているブイの文字がそのままなので、それを修正しようとしたり、TRAVELER’Sの「E」をFERRYの「E」のようなステンシルの文字に直そうとするとうまくいかない。何度指示しても通じないので、これは自分でやってしまった方がきっとぜんぜん早い。そう考えると、やっぱりAIで完全なアウトプットを完成させるのは、まだ難しいのかもしれない。

 このくらいの使い方であれば、これまでもあった画像のレタッチ機能とそれほど変わらない。ただ、今後飛躍的に進化していくのだろうけど。結局、AIはひとつの道具であって、それ自体に正否の答えがあるわけではない。それをどう使うのかという人の意思が何よりも大切なのだと思う。

 マーケティングもそう。個人的にはマーケティング的な手法には懐疑的だし、クリエイションに活用することに前向きではない。だからと言って、それを完全否定するわけではなく、売上データなどから人の嗜好や市場の動きをさぐろうとすることもあるし、トラベラーズファクトリーやイベントでのお客さんの反応とかお話は、ものづくりをする上での指針のひとつになっている。さらに、すべてのアウトプットを決めるときには、あの人たちがどう思うだろう、という想像を必ずする。それに、できることならみんなの想像や期待を上回るような感動を与えたい。

 ほんとうにおもしろいものは、市場調査のデータだけでなく、誰かのワクワクするような想像力やひらめきがないと生まれないと思っている。トラベラーズがものづくりの指針として、自分たちの「好き」を大切にしているのは、そうでないと自分たち自身がワクワクできないからだ。データで表すことができないパーソナルでエモーショナルな心のトキメキや胸の高鳴りこそが、最も大切な指針になる。

 そうはいいながらも、日々身近に迫りつつあるAIとかマーケティング的な正論、大声で罵り合うような対立と、どう距離を保ちながら自分たちの信念を守っていくのか。そんなこともまた、最近の課題になってしまっている。とにかく、トラベラーズはトラベラーズらしく、風の向くまま気の向くまま自由に旅をしていきたい。

 ここまで書いて、トラベラーズノートに何を描こうと思ったら、久しぶりにスターフェリーを描いてみたくなった。写真を眺めながら、スターフェリーの細かい窓やブイを描いていると、やっぱりノートに描くという行為はAIとは対極にあることに気づく。面倒で時間がかかるけれど、細かいところを見て描いている意外な発見があるし、いろいろ思い出して楽しい。AIが普及することで、そんな時間がなくなるのは何よりもったいないとことだと思う。