21回目の桜
4月になりました。うちの会社にも数名ですが、新入社員が入ってきて、緊張した面持ちで日々研修を受けています。東京では桜が満開を迎え、新しい生活を迎える人たちを祝福し、彼らの初々しい姿に華を添えているようにも見えます。
だけど、桜が満開になるのに合わせて、桜を眺める人たちに嫌がらせでもするかのように、雨の日が多くなりました。そういえば、桜が満開になると急に冷え込んだり、風が強くなったりすることが多いような気がします。
おかげさまでトラベラーズノートも無事20周年を迎え、発売してから21回目の桜の季節になります(発売はちょうど桜が咲く直前でした)。当時は、会社は今の恵比寿ではなく、東京の下町にあったので、会社の前の公園で寒い中でお酒を飲みながら、みんなで花見をしたのを覚えています。あの頃は、そんな習慣も残っていたんですね。
この20年間の桜の季節で思い出すのは、やっぱり2011年です。3月11日にあの大震災が起こり、トラベラーズノート5周年記念商品の発売を二週間ほど遅らせることになりました。先の見えない不安の中で、なんとか商品を出荷することになった頃に、桜が咲きました。
多くの人を苦しませるような悲惨な災害があった後も、桜は、いつもと同じように美しく咲き誇っていました。桜を眺めながら、自然は時に大きな試練を人に与えるけれど、美しい景色や心地よい空気とともに喜びも届けてくれる。なんてことを思ったのを覚えています。
あの頃、日本は震災後の自粛ムードの影響で、お酒を飲みながら花見をするのも憚られるような雰囲気に包まれていました。だけど、この年はトラベラーズにとっては自粛ムードに浸る暇もないほど忙しい1年で、6月にはソウルと香港で初めての海外イベントを行いました。さらに9月に京都でイベント、10月にトラベラーズファクトリーのオープンを迎えました。とにかくバタバタ忙しい1年でしたが、震災の不安や悲しみの中で、とにかくノートを作り、その楽しさを伝えていくことこそ、自分たちがやるべきことだと考えていたのだと思います。
トラベラーズファクトリーができた翌年、2012年には、はじめて中目黒の目黒川の桜を見ました。その賑わいに驚きましたが、まだ当時は今みたいに海外からの旅行者はそれほど多くなかったと思います。
2020年のコロナ禍が始まった年の桜も印象深く記憶に残っています。この年は、例年より少し早い3月中旬に桜の開花を迎えました。ちょうど日本でもコロナ感染者が急激に増加してきたタイミングでもありました。初めて外出自粛要請が発令され、トラベラーズファクトリーは土日を休業にすることになりました。
そんな中で、トラベラーズファクトリーに立ち寄った際に、目黒川沿いの桜を見ました。すると見物客も少なく、花見をすること自体が憚れるような雰囲気が漂っていました。だけど、世界中がこれからどうなってしまうのだろうという不安に包まれていたのに、やっぱり桜はいつもと同じように美しく咲き誇っていました。
桜が散って4月になると、事態はさらに深刻になり、緊急事態宣言が発令。在宅勤務を初めて経験し、トラベラーズファクトリー各店は1ヶ月間の休業を余儀なくされました。
その後、最初の緊急事態が明けてしばらくして、トラベラーズファクトリー京都が二度の延期をやり過ごしたのちに、オープンを迎えました。依然としてコロナ禍が続く中でのオープンということで、消毒液を用意したり、レジ前にはビニールのシートを貼ったり、感染予防策を講じました。
あの頃の京都は人が少なくて、行き帰りの新幹線はガラガラで、ホテル代もびっくりするほど安かった。いつもだったら行列ができるような人気のレストランも並ばずに入れたし、有名なお寺も静かでした。あれはあれで貴重な体験だったような気もします。
ただ、ステイホームや三密が声高に叫ばれ、旅をすること自体が憚れたあの頃、旅をテーマにしていたトラベラーズにとって、コロナはかなりの逆境となりました。少しずつお客さんが増えていたトラベラーズファクトリーも振り出しに戻ったようにお客さんが減って、厳しい日々が続きました。だけど、家にいなければならないときに、ノートに向き合う時間を持つ人も増えていったとも思っています。自分もそうでしたが、不安の中で閉じこもるように家にいたときに、ノートに向かって絵を描くことで救われたような気持ちになりました。
そして、2026年。世界では戦争が続く中で、3月にまた新たな戦争が始まりました。この戦争は、日本にも大きな影響を与えそうで、ガソリンや石油加工品の値上がりも危惧されています。それはともかく、どんな理由があれ、人が人を殺す戦争を肯定することはできません。戦争で真っ先に命を落としたり、被害を受けるのは、子どもや病人などの弱者です。日本でも透析治療用の管や注射器、医療用グローブなどの不足が懸念され、この戦争で死の不安が生まれています。
そんな中でも、今年も桜は美しく咲き、私たちの心に安らぎと心地よさを与えてくれます。そして、トラベラーズノートは20周年記念の年です。国内外でイベントを計画中です。トラベラーズノートもまた日々の暮らしに寄り添い、人々の心に灯をともすような存在でありたいと考えています。世界を少しでも良くするには、そんなささやかなことを積み重ねることが大切だと信じています。