2024年11月18日

USA ROAD TRIP in Port Townsend

 USA ロードトリップの最後のイベントは、アメリカ西海岸最北部の州、ワシントンにある人口一万人ほどの小さな港町、ポートタウンゼントで開催された。ちなみにポートタウンゼントは、僕にとって初めての訪問になる。そもそもイベント以前には名前すら知らなかった。

 ポートタウンゼントに行くには、ワシントン州最大の都市、シアトルのウォータフロントからフェリーに乗り、さらにそこから1時間近く車を走らせたところにある。その道のりは、岡山から直島に行くような感じを想像すると近いかもしれない。

 サンフランシスコから飛行機に乗り、シアトル・タコマ空港に着くと、シアトル在住のTRC USAのスタッフ、エイプリルが空港まで車で迎えに来てくれた。しばらくシアトルの街を案内してもらいながら走った後に、ローカル・ハンバーガー・チェーン、ディックスに立ち寄る。ハンバーグが2枚はさまれているデラックスバーガーに、フライドポテトとチョコレートシェイクをオーダー。これで約12ドル。それでも物価の高いアメリカでは最も安い部類の食事になる。車の中でハンバーガーを食べながら、フェリー乗り場に向かった。甘いシェークに肉がたっぷりのハンバーガー。アメリカの食事はどれもおいしいんだけど、ボリュームも増えがち。帰国後、体重計に乗ると、その分しっかり体重も増えていた。

 フェリーは湾を横切るように対岸の半島に向かって走っていく。デッキに上がると、海風が気持ちいい。二年前に乗った直島行きのフェリーを思い出した。40分ほどの航海が終わり、フェリーを降りると、今度は車で半島を北上していく。車窓から見えるカナダに隣接するワシントン州の風景は、パームツリーがロードサイドに続くカリフォルニア州とはまったく違っている。山に囲まれ、緑豊かな針葉樹が続く風景は、日本人には馴染みがあって、心を落ち着かせてくれるみたいだ。

 しばらく走ると、突然ヨーロッパの古都のような街並みが現れた。すると、車はレンガ造りの歴史を感じる建物の前で止まる。「ここが今日のホテルです」とエイプリルは言った。 中に入ると、それほど広くないロビーには、赤を基調としたビクトリア調の家具と装飾が施されている。人口の少ない小さな港町にあるせいか、歴史を感じさせながらも堅苦しさはまったくない。可愛らしく、風通しの良い温かな雰囲気だ。建物は1889年に建てられたそうで、そのためエレベーターはなく、重いスーツケースを持って長い階段を登らなければならなかったけれど、それだけの価値がある素敵なホテルだった。

 あらためて調べてみると、ポートタウンゼントはシアトルよりも歴史が古く、1800年代後半に漁港として発展し、増える人口に対応するため銀行やホテル、商店などのための多くビルが建築されたとのこと。その後、大陸横断鉄道が到達することでシアトルが急速に発展。同時に、シアトルよりも西部にあったポートタウンゼンドの港としての価値は急激に下がり、人々も町を離れていった。

 1900年代に入ると、町の成長は止まり、誰にも注目されない小さな田舎の港町として、開発されることなく細々と生き続けた。ただ、そのおかげでタイムカプセルのように古い華麗な建築群がそのまま保存され、今では避暑地として、さらに物価が高騰するシアトルから引っ越したアーティストや作家などが集まる町として注目を浴びている。イベント会場のArt Toolkitのオーナーでアーティストでもあるマリアさんも、この町の魅力に惹かれ、近年にポートタウンゼントに拠点を移した住民の一人だ。

 荷物を部屋に置いて、ホテルを出ると外はすっかり暗くなってしまった。小さな港町の夜は早い。ほとんどのお店は閉まっていたけれど、歴史的なホテルのロビーやかっこいいバーを覗きながら、夜の町を歩いた。その中のひとつの小さなレストランで食事をして、ホテルに戻った。

 部屋に向かうと、ロビーのテーブルでトラベラーズノートを広げて、何かを描いているカップルがいる。そこで、声をかけようと近くに行くと、「前にトラベラーズファクトリーで会いましたよね」と彼らの方から声をかけてきた。さらに「ちょうどその日は、イベントがあって飛び入りで参加したんですよ」とのこと。僕はそのイベントの話で彼らを思い出し、6年ぶりの再会を握手で祝した。彼らは翌日のイベントのために、カナダの太平洋側の都市、バンクーバーから車で来てくれた。

 そんな話をしていると、また何人かトラベラーズノートを持った方が集まり、みんながノートを広げて話を始めた。ホテルのロビーは、まるでトラベラーズファクトリーの2階みたいだった。それほどホテルの多くない小さな町の、さらに小さなホテルのゲストのほとんどが、トラベラーズノートユーザーになっている。なるほど、もしトラベラーズホテルがあったら、きっとこんな感じなんだろうな。なんてことを思った。

 朝のポートタウンゼントは、気持ちいい。ホテルの前の道路を横切るとその先には海が広がる。海沿いのカフェに入り、パンとコーヒーの朝食をとった。その後、すぐ隣にあるArt Toolkitに入ると、バタバタとイベントの準備。この日は、ノートバイキングはない。USA ROAD TRIPのアイテムを中心としたポップアップコーナーとあわせて、スケッチイベントを開催するが、これはオーナーのマリアさんが仕切ってくれる。この町の雰囲気通りにのんびりイベントを楽しめたらいいな、なんて思っていた。

 バタバタと商品を並べ終わり、一通り準備を終えて、外に出てみると、ここでもたくさんの方が列を作って待ってくれている。昨晩ホテルのロビーで会った方々も並んでいて、笑顔でハローと声をかけてくれた。僕はこんな場所にまでたくさんの方が集まってくれたことに胸が熱くなった。そして、のんびり楽しもうなんていう甘い考えを追いやり、心の中でギアを一段上げてアクセルを踏み込むと、やる気エンジンの回転数をグッと引き上げた。