いつも身近で寄り添ってきた音楽
ブルース・スプリングスティーンの映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』を観た。彼の長いキャリアの中での異色のアルバムとも言える暗いトーンの弾き語りによる作品『ネブラスカ』の制作時期のスプリングスティーンが描かれている。映画も暗いトーンで進む。だからなのか、映画館の中には10名くらいしかお客がいなくて、そのわずかな客も僕と同じかそれ以上の中高年層しかいない。近いうちに上映も終わってしまいそうで、このタイミングで来ておいてよかったと思った。
映画を観に行く一週間ほど前のこと。10年以上フジロックに通っている音楽好きの人がいて、ブルース・スプリングスティーンの映画の話をしたら、映画以前にブルース・スプリングスティーンも知らなくて、さらに彼の最大のヒット曲「ボーン・イン・ザ・USA」も聴いたことがないと言われて、軽くショックを受けた。まあでも「ボーン・イン・ザ・USA」がヒットしたのは僕が中学生だったときだし、以降はスプリングスティーンには派手なヒット曲があったわけではない。まあ、そういうものなのかとも思った。
ただ、スプリングスティーンは今でも現役で活動していて、コンスタントに新しいアルバムを発表しているし、今年の5月にはライブで痛烈にトランプ批判をして、その後トランプはSNSで「あいつには才能がない」と応酬しているのが話題になったりして、相変わらず現役のロックンローラーとして活動している。
映画は、いきなり「明日なき暴走(Born to Run)」のライブでの演奏シーンから始まって、僕はもうそれだけで涙ぐんでしまったのだけど、その後は延々とスプリングスティーンの苦悩が描かれる。
アルバムの表題曲「ネブラスカ」は、ネブラスカ州の田舎町で実際にあった連続殺人事件の犯人の語りのような歌詞になっている。映画では、最初にその犯人が「He」と三人称で書かれていた歌詞を、「I」と一人称に書き換えているシーンがある。さらに自宅で4トラックのレコーダーでデモテープを録音し、その後スタジオでバンドメンバーとともにレコーディングしたにもかかわらず、その出来に満足できずに、レコード会社の反対を押し切ってデモテープの音源のままリリースをするまでが詳細にわたって描かれている。そんな制作の裏話を見ることができるのも楽しいけれど、それ以上に、そこにある彼の孤独と苦悩が重く響いてくる。盟友と言われているEストリート・バンドとの交流も描かれないし、恋人と一緒にいても孤独が癒やされることがない。
映画を観ていると、彼の表現の源は、過去のトラウマや、今いる場所に安住できない苦悩と、その苦悩を人に共有できない孤独感がベースになっているのがよく分かる。決して観終わって爽快感が得られるような音楽映画ではないけれど、しみじみと心に響く映画だった。
そんな中で、ザ・ストーン・ローゼズのマニの訃報を知った。まだ63歳の若さだった。ストーン・ローゼズといえば、僕は最も好きなバンドのひとつで、そのデビューアルバムは、自分がこれまで最も繰り返し聴いたアルバムだ。
四人のメンバーの音楽的なキャラクターや立ち位置がはっきりしていて、誰が欠けてもその音が成り立たないのが理想的なバンドだとすれば、ストーン・ローゼズはまさに僕の中では最も理想的なバンドだった。その中でもベースのマニは、うねるようなベースのフレーズで、ドラムのレニとともにバンドのグルーヴを作り上げていたメンバーだ。
ベースではじまる曲も多く、2017年の武道館でのライブのときには、一曲目の「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」のイントロのベースラインが聴こえると、みんなで「ドゥドゥドゥドゥ」とベースラインを合唱していた。ライブでベースラインを合唱されるようなベーシストは、なかなかいないと思う。
ストーン・ローゼズは、1989年、僕が大学生の頃にデビューして、以来30年以上聴き続けている。2017年には念願のライブに立ち会うことができた。そのメンバーであるマニの訃報は、いつも身近にいた尊敬する先輩が亡くなったような気分になった。63歳で僕とたった7つしか年が変わらないんだよね。そのうちまた観ることができるだろうと思っていたライブも、もう2度と観ることができない。
そんなわけで、ここ最近は、ブルース・スプリングスティーンとザ・ストーン・ローゼズを繰り返し聴いている。今でも彼らの音楽と出会ったときと同じように、感動して涙を流すこともあるし、勇気をもらうこともある。あの頃は、56歳になってもそんな思いで同じ音楽を聴き続けることになるなんて、想像もしていなかった。ここまで来ると、きっと死ぬまで聴き続けるんじゃないかな。
ブルース・スプリングスティーンのデビューアルバム『アズベリー・パークからの招待状』に「成長するってこと」という曲があるけれど、成長するっていったいどういうことだろうと考えてみたりする。
Ooh-ooh, growin’ up