続けていくということ
ヨーロッパから帰ってからの一週間は、怒涛のようにいろいろなことがあって、悩んだり、驚いたり、嘆いたり、悲しんだり、喜んだりしながらバタバタと過ぎていった。
そんな中、あらためて考えさせられたのは、自分たちのありたい形を守りながら続けていくことの大変さだ。自分たちの意思とは関係なく、世の中や周囲の状況は変化していく。トラブルは日々あるし、不安に押し潰されそうになったり、逃げ出したくなるようなこともある。いろんなことが思い通りにいかない中で、みんな希望と絶望の狭間で揺れ動きながらなんとか日々を過ごしている。
なんだか弱音を吐き出しているみたいだけど、決して未来を悲観している訳じゃなくて、トラベラーズノートやトラベラーズファクトリーがみんなをもっと楽しくわくわくさせるような存在になり、同時に僕や一緒に働く仲間たちが、充実感を持って楽しくいきいきと仕事をしている、そんなイメージは決して夢みたいなことじゃなくぼんやりだけど現実感を伴って頭に浮かんでいる。それは決して簡単ではないけど、そこに向かって水前寺清子ばりに時には2歩下がっても3歩進んでいると思っている。
そんな一週間の最後の締めくくりは、トラベラーズファクトリー中目黒で開催したアアルトコーヒー庄野さんによるカフェイベントだった。この日、庄野さんはあえてより手間がかかるネルドリップでコーヒーを淹れてくれて、美味しいピワンさんと14gとのコラボカレーパンとあわせて、よりまろやかで優しい味わいのコーヒーをいただくことができた。
実はこの日2月3日は、アアルトコーヒー12周年の誕生日にあたる日だった。そんな大切な日に、トラベラーズファクトリーでのイベントを受けてくれるのも庄野さんらしいけど、僕らもその思いに応えたくて打ち上げにサプライズパーティーを企画した。庄野さんに内緒で、ゆかりのある方々に声をかけ、みんなでアアルトコーヒーの12周年を祝おうと考えたのだ。
そんな声がけにそれぞれ忙しいなかで、シンガーソングライターの山田稔明さんに高橋徹也さん、デザイナーの吉積さん、tico moonの影山さんに友加さん、mille booksの藤原さん、巣巣の岩崎さん、吉祥寺のカレー屋、ピワンの石田さんと村山さん、そして、写真家のキッチンミノルさんが集まってくれた。さらに、ピワンさんはなんとこのために絶品のカレーライスを振舞ってくれて、美味しくて楽しくて、嬉しい打ち上げとなった。
庄野さんとの出会いは、2009年の夏だからもう8年以上の付き合いになる。ここに集まっていただいたみんなは、それから庄野さんを通じて知り合った方がほとんどで、僕らの世界を広げてくれた庄野さんにはあらためて感謝の気持ちでいっぱいになった。
アアルトコーヒーは、トラベラーズノートより1ヶ月ほど先輩なので、トラベラーズノートもあと少しで12年続くことになる。さらにここに集まった皆さんもまた、音楽をはじめ、お店や本作り、写真に料理など、それぞれが信じる仕事を何年も続けてきている。当然、その過程には様々な苦労もありながらも、目線は常にそれぞれのファンや受け手に向かい真摯に誠実に仕事に取り組み続けてきた方々だ。そんな皆さんと同じ席で楽しく飲んで話しができることが素直に嬉しかった。
僕らと同じように、きっとこれを読んでくれている皆さんにも、日々の暮らしのなかで、時には辛いことや悲しいこと、逃げ出したくなるようなことはあるかもしれません。だけど、そんな時トラベラーズノートを開いたり、トラベラーズファクトリーに足を運ぶことで、美味しいコーヒーや食べ物、美しい音楽や写真、本のように、ささやかでも、生きていくことの素晴らしさや美しさに気づき、新しい旅をはじめる勇気を得られるような存在になれるよう、これからも僕らの仕事を実直に続けていきたいと思います。