2018年2月13日

My Funny Valentine

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女の子が少し不安な面持ちで店内に入って来る。ゆっくり商品を手に取ったり、戻したりしながら、何かを考えごとをしているようにも見える。そこでスタッフの一人が、さりげなく声をかけた。
 
「何かお探しですか?」
「あ、はい、プレゼントを探しているのですが」
 
ちょっと緊張気味に女の子は答える。
 
店内には、God Help The Girlの曲が流れている。不安で押しつぶされそうだった女の子が、音楽によって生きていく勇気を与えられ、救われていく。そんな映画で使われていた曲だ。女の子は、バレンタインデーのプレゼントを探していると伝えてくれた。その表情から、きっとその相手とは、安心して一緒にいれるような状態ではなく、このプレゼントをきっかけにそうなれれば、ということなのが察せられた。だけどスタッフはあからさまにそんなことは表さず、一緒になって何がいいか考えた。小さな店内を何周もして悩んだ末に、このお店の一番のおすすめであるトラベラーズノートに決めた。
 
「いつも手にするもので、長く使うほどに愛着が湧くので、ずっと付き合っていきたい方へのギフトにぴったりですよ」

そんな言葉が決め手になった。このノートに二人の物語が綴られていったら、どんなに素敵だろう、と思った。

女の子はほっとしたように支払いを済ませると、スタッフが丁寧にラッピングするのを眺めた。するとスタッフは、ギフトに添えるカードを渡してくれた。そこで2階でコーヒーを飲みながら、カードにメッセージを書いてみようと思った。
 
誰もいない静かな2階で、ペンを手にとると、マイ・ファニー・バレンタインが流れてきた。しばらく耳をすませてチェット・ベイカーが物憂げにつぶやくように歌うのを聴いていると、いつもおどけて自分のことをからかってばかりいる相手を思い出し、切ない気持ちになった。
 
もうすぐ大学を卒業して、それぞれ違う道を歩こうしている2人。その前に自分の気持ちを伝えたかったけど、それは、簡単なことではなかった。夏目漱石が英語教師をしていた時、I love youを「我君を愛す」と訳した生徒に、「日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、と言えば通じるんだ」なんて言ったそうだけど、そんな言葉で通じ合える昔の日本人がちょっと羨ましかった。結局カードには、相手の名前と自分の名前の間にこれからもよろしくね、と一言だけ書いた。
 
「いろいろありがとうございました」女の子はあえて明るく声をかけながら店を出た。

「こちらこそありがとうございます。プレゼント喜んでもらえるといいですね」スタッフもまた笑顔で答えた。外はすっかり暗くなり、頬には2月の冷たい風があたった。
 
それから1ヶ月。またその女の子がやってきた。隣には、彼女と同じ年頃の男性がいた。彼は女の子のために自分とお揃いのノートを買うと、2人で嬉しそうにスタンプを押した。
 
もうすぐバレンタインデー。こんなことがトラベラーズファクトリーであったらいいなあと妄想を書き綴ってみました。
 
話変わって今週2月16日(金)~2月19日(月)、トラベラーズファクトリー中目黒にて、葉山で作られる帆布バッグ、KO'DA STYLEとメイドインジャパンの背伸びせずに着られる心地よいシャツ、AIR ROOM PRODUCTSの展示販売イベント、BAG AND SHIRTSを開催します。春を予感させてくれる素敵なシャツとバッグです。ぜひご覧ください。

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