The most personal is the most creative
一泊二日で京都へ行ってきた。
いつも満席の新幹線には空席が目立ち、宿はぎりぎりになって手配したにもかかわらず、思いがけず安い値段で、いつもよりちょっとだけグレードの高いホテルに泊まることができた。京都に着いて最初の食事は、以前行った時はたくさんの人が並んでいたため入るのを諦めた近くの洋食屋さんに行ってみた。老舗らしいデミグラスソースがたっぷりかかったオムライスが美味しかった。
3月も半ばを過ぎて、京都の街には春の優しい日差しがふりそそぎ、暖かな空気に包まれていた。僕らはホテルに立ち寄り、荷物と一緒にコートをフロントに預けると、少し身軽になって、軽快にいつもより落ち着いた雰囲気の京都を歩いた。
旅の目的は、トラベラーズファクトリー京都の内装の立ち合いだ。オープンまで一ヶ月を切り、内装工事もいよいよ最終段階に入った。現場に入ると、中目黒からエアポート、ステーションの内装工場もやってくれている大将こと成田さん率いる、チームのみんなが既に作業をはじめてくれていた。
古い木製のパレットを再利用して作った商品棚、神社仏閣の修復工事を専門に行う鳶職の方から譲ってもらった足場材で作ったカウンター、アンティーク屋を巡って手に入れた年代もののテーブルやトランク、ロッカー、照明、流山工場から持ってきたローラーコンベアにはガラスの天板が付けられかっこいいテーブルになっていた。それらは設置されたばかりなのに、まるでずっと前からその場所にあったような佇まいで、僕らは思わず「いいですね」と成田さんに言った。
内装の図面はもちろん用意されているのだけど、現場で目で見ながら、棚や什器、看板などの位置を調整し、フレームや照明を取り付ける。例えば、譜面を読み込んでスタジオに集まったバンドのメンバーたちが、実際に音を出しながら、新しいアイデアを出したり、ハーモニーを調整したり、グルーブに身を委ねたりすることで、ひとつの曲が完成していくように、トラベラーズファクトリーの空間は作られていく。
「すみません!やっぱりこの棚の位置は、こっちに変えたいんですけど」とか、「ここに板を取り付けてほしいんですけど」と、その場の思いつきでわがままを言うと、成田さんたちは「大丈夫です!」と言って安定感のあるリズム隊のように、確実に作業を進めてくれた。カウンターの奥に、錆びたトタン板にロゴを描き込んで作った看板を設置すると、空間は一気に店っぽくなった。看板の下には、中目黒から持ってきたトラベラーズバイクを吊り下げた。
1日目の作業が終わると、京都を拠点にする雑貨屋アンジェの羽賀さんと久しぶりにお会いして一緒にご飯を食べた。羽賀さんは、中目黒ができる時からお世話になっている、僕らにとっては店作りの師匠のような存在の方。京都で飲みましょうと言っていた約束をやっと実現することができた。羽賀さんが紹介してくれた老舗感たっぷりの居酒屋さんに行くと、スタッフの方も加わり、楽しい宴がはじまった。昨今の厳しい状況のことから話は始まったけど、すぐに話題は変わって、それぞれのお店のことに京都のディープな情報もたっぷり教えてもらった。
そして、翌日も朝から現場に入り作業を続けた。すると突然、成田さんが「こんなもの持ってきちゃったんだけど、いります?」と言って、レコードがたっぷり入ったダンボール箱とウクレレを見せてくれた。レコードは、ジャニス・ジョプリンから、ジェームス・テイラー、ノーマン・ブレイクなど、60、70年代のアメリカのロックやブルーグラスのレコードを中心に、細野晴臣のトロピカル三部作までが揃い、好きなアルバムもたくさんあった。
「断捨離をしなくちゃならなくなって」と成田さんは言っていたけど、きっと青春の思い出がたっぷり詰まった大切なレコードのはず。僕らは喜んで受け取り、レコードとウクレレを棚に飾った。ふと、最近ずっと心に引っかかっていた言葉が頭に浮かんだ。
「The most personal is the most creative. 最も個人的なことが最もクリエイティブになる」
映画『パラサイト』のポン・ジュノ監督がアカデミー賞授賞式のスピーチで引用していたマーティン・スコセッシ監督の言葉だ。トラベラーズファクトリー京都は、僕らメンバーはもちろん、この場所に関わるたくさんの人たちの個人的な想いが詰まった空間になりそうで、ワクワクしてきた。
また、スタッフの方のご好意で思いがけずエースホテルの中も見ることができた。詳しいことは書けないけど、ロビーに部屋、バーやレストランも、京都や日本を感じる要素を取り入れながらも、まさにエースホテルならではのかっこよくて心が踊る空間になっていた。フレンドリーでホスピタリティたっぷりの、こちらもエースらしさを感じるスタッフと話をしながら、アメリカではじめてエースホテルに足を運んだ時と同じ高揚感を味わった。
作業が早めに終わったら、人が少ない京都の観光地をこの機会にいくつか巡りたいと思っていたけれど、結局そんな時間もなく、作業が終わると足早に京都駅に行き、新幹線に乗った。オープンに向けてやらなければいけないことはまだいっぱいあるけど、いい空間になりそうな予感を心に抱きながら、東京へ帰った。
話は変わりますが、今週3月26日は、ブラスペンの限定カラーファクトリーグリーンにローラーボールペンがいよいよ発売になります。このペンを使うことで、ノートに向かって何かを書くこと時間が少しでも楽しい時間になればいいな。みなさまぜひ。