ここ1ヶ月は在宅勤務が基本なんだけど、オフィスでないとできない仕事もあるので、たまに会社に出なければならない。そんな時、最近は自転車で会社まで行くことが多い。家からオフィスのある中目黒まで17キロ。マイペースで走って1時間ちょっとかかる。電車で行くとちょうど1時間なので、10分くらいしか通勤時間は変わらない。　
　
もちろんウイルスの感染を防ぐということが自転車通勤の最初の動機だったのだけれど今ではそれだけでなく、自転車通勤自体がちょっとした楽しみにもなっている。家にこもっている時間が多くてなまった体にはいい運動になるし、なにより外で風を浴びて走るのが気持ちがいい。
　
朝、家を出る時は、まだ風が涼しい。トラベラーズバイクのペダルをゆっくり踏み込みスカイツリーを横目に隅田川を渡る。蔵前、日本橋を通って、東京駅が見えると行程の半分をクリア。皇居の前を走っているとほのかに新緑の香りがするのが嬉しい。皇居を抜け、きつい坂道を登ると六本木だ。六本木ヒルズを曲がって、有栖川宮記念公園の脇の長い下り坂を一気に走る。そして広尾、恵比寿を抜けて中目黒に着く。オフィスに着くと、汗で濡れたTシャツを着替えて一服してから、仕事をはじめる。
　
帰りは代官山を経由して光る東京タワーを横目に六本木へ抜ける。普段はきっと賑やかな夜の六本木も今はあまり人がいない。すれ違うのは、ウーバーイーツの自転車ばかりだ。六本木から霞ヶ関を通って皇居に抜ける道は、行きは登りだけど、帰りは下り道なので一気に駆け下りていく。夜の皇居前を気持ちよく走っているとライトアップされた東京駅が見えてくる。頭の中では、FISHMANSのナイトクルージングがリフレインする。緊急事態宣言下の静かな東京の夜を走るのに、ぴったりのBGMだ。
　
東京駅の前まで行くと、夜の8時を過ぎたばかりなのに人通りも少なく閑散としている。ふと思い立ち、駅の前に自転車を止めて、トラベラーズファクトリーの前まで行ってみる。まるで終電が終わった後みたいな、人がほとんどいない駅の構内で、シャッターが閉められているその姿は、どこか寂しげだ。気を取り直して再び自転車に乗り、夜の人がいない日本橋を走り抜ける。しばらく走ると青く光るスカイツリーが見えてくる。隅田川に着いたら、川沿いの遊歩道にあるベンチに腰を下ろして、一休み。ここのところ日課にしているインスタグラムの記事を書いてアップする。
　
心地よい疲れに包まれながら、静かに流れる夜の川面にゆらゆらと光が反射するを眺める。吹き抜ける夜風を浴びると、こんな日々の中でも気持ちが穏やかになり、旅をしているような気分になる。いろいろ大変なこともあるけど、そんな中でささやかな楽しみを見つけて、なんとかこの不安な日々をやり過ごしていく。大丈夫、きっとうまくいくはずだよ。なんの根拠もないのにそんな言葉を頭の中でつぶやいてみる。ここまで来れば家はもうすぐ。スカイツリーを目指して一気に走る。