2023年6月19日

久しぶりの再会

 パトリックが久しぶりに香港から日本にやって来た。パトリックはcity’super/LOG-ONでステーショナリーなどのバイヤーとして仕事をしながら、個人的にもユーザーとして発売当初からトラベラーズノートの楽しさを世界中の人たちに発信してくれているトラベラーズチームの仲間のような存在。スターフェリーからはじまり、香港トラムにミスターソフティーとのコラボレーションも彼が繋いでくれたことで実現できたし、その付き合いももう20年近くになる。僕にとって思い入れのある場所でもある香港に、そんな仕事の仲間でもあり、友人でもある存在ができたことは、トラベラーズノートを作ることによってできた嬉しいことのひとつでもある。

 コロナ前には毎年、年に何回か会っていたのだけど、2019年10月にマニュアルファクトリーベアーのイベントのためにトラベラーズファクトリー中目黒に来てもらったのを最後に、その後コロナがはじまってからずっと会えていなかった。二週間ほど前にパトリックから届いた「家族で旅行に日本に行くんだけど…」というメッセージに、「久しぶりだし、できたら一緒に飲もうよ」と返事を返すと、「いいね」と返してくれた。

 ということで先週金曜日、パトリックは家族旅行の合間をぬって、東京で借りたという折りたたみ式自転車に乗ってトラベラーズファクトリー中目黒に現れた。早速2階に上がると、「草津温泉に泊まって、この日は息子さんが見たいというので横浜のガンダムファクトリーに行ってきたんだ」と、今回の日本の旅について話してくれた。彼のトラベラーズノート見せてもらうと、お気に入りだと言うB-Sides & Raritiesの超軽量紙リフィルの紙面に、草津温泉で描いた素敵なイラストがあった。

 その後、場所を移して一緒にご飯を食べながらゆっくり話をした。ちなみに僕らが香港を訪れたのは、2019年7月にLOG-ONで開催したマニュアルファクトリーベアーとのコラボレーションイベントが最後。あのときは、香港はもちろん、中国、マレーシア、シンガポール、台湾、インドネシアなどからトラベラーズノートユーザーが集まってイベントを盛り上げてくれた。あれからほぼ4年。お酒を飲みながら、長いような気がするし、あっという間だったような気もする4年の間に、それぞれ起こったことついて話をした。

 パトリックは、その間にマーケティングマネージャーに昇格し、現在はバイヤーの仕事を離れ、city’superのカンパニーブランディングなどを行なっているとのこと。そのため、パトリック個人としては、今ではトラベラーズカンパニーとは仕事上の直接な繋がりはなくなってしまっているのだけど、それでも「こんなところとコラボレーションできたら楽しいよね」など、これまでと変わらないスタンスで、秘密の作戦会議をするみたいに楽しく話をした。

 だけど一方この4年間で、仕事上の立場が変わったり、デジタル化が進んだり、世の中が変化することで、違和感とか生きづらさみたいなことを感じることがお互いに多くなっていることも分かった。それでも彼は、大事なのはパッションなんだと前向きに転換しながら、相変わらず、クリエティブなアイデアと好奇心で、仕事や趣味を楽しんでいるようで、その姿に僕も勇気づけられた。仕事上の関係はないかもしれないけれど、これからも一緒にトラベラーズの仲間として楽しいことをしたいし、友人としても付き合っていこうと話した。

 食事の最後、「デザートを頼もう」と言ってメニューをパトリックに渡すと、彼は日本語のメニューにスマホのカメラをかざしてに翻訳をはじめた。すると、彼はプリンの説明に添えられていた「ほろ苦いキャラメルソース」の文字を指さして、「中国語に翻訳すると、幸せと悲しみが混ざったキャラメルソースって訳されているけど、どういうこと?」と笑いながら言った。「『ほろ苦い』は、『a little bitter』っていう意味だけど、グーグルはずいぶん詩的に訳すんだね」と僕らも笑いながら答えた。

「人生みたいだね」さらに僕はそうつぶやいた。甘いだけより、ほんのり苦味が加わることで、味わいがより深くなるように、楽しいことばかりよりも、悲しいことや辛いことがときどきある人生の方が、きっと味わい深い。追い風を受けながら進んでいく方がいいけれど、ときには逆風に向かって奮闘することで強くなる。デザートを食べながら、そんなことを思った。

 飲み会が終わると、パトリックは折りたたみ自転車をパパッと組み立てて、さっそうと自転車でホテルへ向かっていった。そんな後ろ姿を眺めながら、僕も香港の街を自転車で走ってみたいと思った。パトリックは香港に比べると、東京は本当に自転車で走りやすいと言っていたけど、妖しい路地裏を寄り道しながら、通りを埋め尽くすような看板が続くネイザンロードを縦断し、自転車を折りたたんでスターフェリーに乗って、香港島に行く。香港島では普段は行かない南側のビーチまで足を伸ばしてみるのも楽しそう。きっと今まで知らなかった香港に会えるような気がするし、それにこの4年間で香港がどう変わったのかも見てみたい。

 香港のみならず東京も京都も、バンコクもニューヨークも、すべての都市は常に変化をしている。当たり前だけど、今のその街の景色は、今しか見ることができない。コロナが始まったばかりの頃の東京の、人がほとんどいない閑散とした風景は、あのときだけしか見ることができなかった。これからだって、100年以上守られてきた貴重な樹々が伐採されようとしたり、街並み再計画の名のもとに、歴史ある建物が点在する混沌とした街が破壊され、こぎれいなだけのつまらない風景に変わろうとしている。

 それでも、大資本の目の届かない路地裏の奥で、地元の人たちに愛されながら続く老舗や、古い長屋を活かした新しいお店もある。大資本に抗い、自分の思いに忠実に覚悟を持って、あえて小商いで続ける店を今でも見つけることができる。日本みたいな国では、むしろそういうやり方こそ、これからの時代にフィットしてくるような気もする。

 香港に行ってパトリックに会うと、そういった古くて新しいような面白い場所に何度も僕らを案内してくれた。それに僕にとって香港は、返還前の1992年にバックパッカーとして最初に訪れて以来、最も足を運んだ異国の都市でもあるし、旅をすることが許されるのであれば、これからも定期的に香港を訪れて、その変化も見続けていきたいと思った。

 僕らが会った翌日、パトリックは再びトラベラーズファクトリー中目黒まで足を運んでくれて、ファン・ミーティングみたいなことを開催してくれた。僕は行くことができなかったんだけど、たくさんの方が楽しんでくれている様子を知ることができた。次は香港で会えるといいな。