A Hot Summer Day
暑い日が続いていますが、皆様元気にお過ごしでしょうか。
東京では、7月半ばから35度を超える日が続いています。もう地球温暖化で日本の夏の気候は、赤道直下の国々とそう変わらないのかもしれない。であるならば、旅好きの僕らは、そのことを逆手にとって、行かずして赤道直下気分が味わえると発想を転換させて、南国を旅するような気分で毎日を過ごすことにしてみるのがいいのかもしれない。
実を言うと、僕はこれだけ暑くなっても、寒い冬より暑い夏の方が好きで、冬には寒くて2ヶ月ほど休むけど、夏には週に何日かは自転車通勤を続けている。さすがに熱射病で倒れるとまずいので、この時期はペットボトルの麦茶をボトルケージに入れて、ちょこちょこと水分補給しながらゆっくり走る。1時間半ほど走って会社に着く頃には、Tシャツはびっしょり濡れているから、まずはトイレで着替える。いざ仕事を始めようと机に座ると、ぐったりした疲れと爽快感が入り混じった風呂上がりのような気分になる。
それが仕事に良い影響を与えているのか、悪い影響を与えているのかはよくわからないけれど、朝からちょっとした充実感が味わえる。正直に言えば、特に何もしていないのに、何かひと仕事をしたような気分を味わってしまうので、仕事上良い影響を与えていないのかもしれないけど、健康には良さそうだし、何より気持ちいい。
帰りは日差しがないから走りやすい。だけど、猛暑の夜には途中でカフェによって冷たいものを飲んだり、途中で銭湯に寄ったりしながら、ゆっくり帰る。そんなことで、南国を自転車で旅するような気分を味わえるのもいい。
旅気分と言えば、この前の三連休、ふと思い立って自転車を走らせ巣鴨に泊まった。毎年いつもこの時期はトラベラーズタイムズの制作時期でもあるのだけど、バタバタしていて、まったく手をつけることができていなかったので、泊まりで仕上げてしまおうと思ったのだ。
一昨年に同じことをやっていて、このときはまさにコロナ禍真っ最中というタイミングで、思いがけず安い値段で東京湾ベイサイドのホテルに泊まることができたのだけど、今回は同じ価格で泊まることができるのは、サウナ付きのカプセルホテルだった。
この日の宿に着くと、とりあえず昼間からゆっくりサウナに入って2時間ほどくつろぐ。そして、休憩スペースでパソコンを広げる。まずはブログを仕上げて(先週アップしたもの)、タイムズの原稿を書こうとするのだけど、なかなか書き出しの文章が思いつかない。少し休もうと思いリクライニングチェアに横になるとしばらく寝入ってしまった。目が覚めると、眠気覚ましにまた風呂に入る。そのうち、お腹が空いてきたので、外に出て、歩いて見つけた中華屋さんでビールを飲みながら、ラーメンとシュウマイを食べた。
東京のあまりよく知らない街をぶらぶら歩き、なんてこともない中華屋で、お酒を飲みながらなんてこともない普通の中華料理を食べる。そして、お腹を満たすと、またぶらぶら歩いてその日の宿に帰る。そんな旅と日常が混ざり合ったような、日常の狭間の自由で解放感を感じる非日常の旅気分が楽しい。ふと頭の中に、リアルな旅の喜びを感じる瞬間がいくつか浮かんだ。そして、トラベラーズタイムズにはそのことを書こうと思った。だけど、酔っ払ってしまったこともあって、結局その日はもう一度お風呂に入って、原稿も書かずにカプセルの中で眠ってしまった。
翌日、目が覚めると、朝風呂に入ってから、チェックアウトぎりぎりの時間にカプセルホテルを出た。まずは近くのカフェでモーニングの朝食をとることにする。そのままパソコンを広げて、なんとか原稿をひとつだけ書きあげた。時間はお昼を回ったところ。そのまま帰るにはまだ早いので、新宿で開催している「山下清展」に立ち寄ることにした。
この日の東京は、この夏一番の暑さ。突き刺すような日差しの下で自転車を走らせていると、グーグルマップを映すハンドルに取り付けたスマホの画面が、あまりの暑さのためか、フリーズして動かなくなってしまった。自分の頭もフリーズしないように、水分補給をしながら、休み休み走った。
なんとか新宿までやってきて見ることができた「山下清展」は、素晴らしかった。生誕100年展ということで、少年時代から、49歳で早逝するまでの作品が丁寧な説明とともに並べられていて、あまりよく知らなかった彼の人生も知ることもできた。山下清といえば、ドラマでもあったように放浪の画家というイメージが強いけれど、実際に18歳に当時住んでいた救護施設を抜け出して以来、何度も放浪を続けていたようで、スケッチブックに書かれたその頃の絵日記も展示されている。
「おれは毎日汽車道を歩いて居るので 都合によってたまに道を歩く時もあるのです おれはどうして汽車道ばっかり歩いて居るかというと 駅と駅の間を歩くには 人が通る道を歩くと 通ったことがなくて はじめての道だから 人が通る道を歩くと 右に曲がる道だの 左に曲がる道だの 十字路の道があって どの道を通って行けば 次の駅に行くのか分からない」
「昼飯を貰ってから また熱海の海岸の景色を見ようと思って しばらく歩いて行くと 海の隣に水族館があった いくら金を出してみたのか忘れてしまったけれど 貰った金が少しあったので その金を出して 水族館を見に行ったら 色々な魚がたくさん居るので 見ていると面白い しばらくたってから 水族館から出て 熱海の海岸の景色を眺めながら 道をどこまでも歩いて行くと 景色のいいのがたくさん見られて 見ていると美しい」
絵日記には、緻密なタッチで描いた絵とこんな言葉が鉛筆で綴られている。まさに純粋に移動をすることに喜びを見出し、旅を愛して、それを表現することを生業としてきたトラベラーとしての彼の姿にたくさんの刺激を受けた。
人が話すときには言葉に出さないから、という理由で句読点がなく、飾らず正直な思いを独特のリズムで綴る彼の文章もおもろしく、ずっと前に読んで内容もすっかり忘れてしまっている彼の本をまた読んでみようと思った。
話は変わりますが、公式サイトで先週末にスターバックスリザーブロースタリーとのコラボレーションを発表しています。こちらは同店舗ですでに発売していますが、今週ももうひとつ新しいコラボレーションを発表する予定ですので、楽しみにしていただけると嬉しいです。