2023年7月31日

地中美術館

 直島の地中美術館から最初に連絡があったのは、昨年3月のことだった。その後、リモートミーティングで何度か話をして、「一度直接お会いをしてから具体的な話をしましょう」ということで、しばらく連絡が途絶えていた。そんな中、昨年9月のキャラバンイベントで、京都・倉敷・徳島を巡ることになり、ちょうど倉敷と徳島のイベントの合間に行けそうだということで、あらためて担当の方に連絡をすると、訪問を快諾してくれた。

 倉敷でのイベントの翌日に直島行きを予定していたのだけど、台風でイベントはその翌々日に延期。直島行きの日も台風でフェリーが動くか心配だったけれど、朝には降っていた雨もフェリー乗り場がある宇野港に着く頃にはすっかり止んで、逆に台風一過の快晴の下でフェリーに乗ることができた。気持ち良い海風を浴びながら、瀬戸内海の美しい風景を眺める船旅は、それだけで気分があがる。キャラバン旅の途中ということもあって、はるばる遠くに来たなあ、という思いで直島に上陸した。

 フェリーを降りると、くねくねした山道を迷いながら車を走らせ、地中美術館に到着。僕らを出迎えてくれた担当の方は、「まずは、美術館を見学しましょう」と言ってくれて、贅沢にも彼女の解説付きで展示をゆっくり見学した。

 この美術館が他と違うところは、印象派画家のクロード・モネ、彫刻家のウォルター・デ・マリア、光と空間をテーマにした現代美術家のジェームズ・タレルのわずか3人の作品を展示するために建築や空間が作られていること。なので、ここでは企画展などはなく、同じ作品が常設で展示されている。建築は安藤忠雄氏の設計で、作品にあわせて作られた展示場所のみならず、作品に至るまでの動線も含めて、その中にいることすべてがアート体験になっている。また、さまざまな場所で自然光が取り入れられるように設計されていて、その日の天候や時間、季節によって、作品の見え方や印象が変わるのも面白い。安藤忠雄氏を含めた4人のアーティストに加え、太陽や空などの自然が作品体験を作り上げる大きな要素になっているものこの美術館の魅力だ。

 すばらしい展示と空間にすっかり感動した僕らは、この場所にトラベラーズノートが置かれるのを想像してワクワクした。美術館の入り口の前には、モネが自宅に造園した池を参考にして作られた「地中の庭」があり、展示作品の『睡蓮』のような風景を見ることができる。実際に作品を見てから、最後にその池を眺めると、よりその美しさに気づくことができて動が深まる。いつか、誰かがここで手に入れたトラベラーズノートを手に、この睡蓮をスケッチしていたら素敵だなと思った。

 それから何度か打ち合わせを繰り返しながら、先週発表したコラボレーションアイテムができあがった。黒の革にシンプルにロゴを刻印したトラベラーズノートをはじめ、リフィルやブラスボールペン、チャームも地中美術館らしいシンプルで洗練された佇まいに仕上がったと思っている。チャームは、空から俯瞰してみた地中美術館をモチーフにたデザインを刻印しているのだけど、それがまるで抽象画のように見えるのも楽しい。

 地中美術館に行くには、東京からだと飛行機か新幹線で岡山まで行き、そこから電車かレンタカーを借りて、宇野港まで行き、さらにフェリーに乗らないと行くことができない。決して休みの日にふらっと気軽に行けるような場所ではない。だけどそこに行けば、地中美術館はもちろんだけど、それだけでなく直島に点在するアート施設や瀬戸内海の美しい自然など、その場所でないと味わうことができない素晴らしい体験が待っている。

 そんな体験とともに、トラベラーズノートに出会う人がいたら素直に嬉しいし、トラベラーズノートをきっかけに、いつかこの場所へ旅をしてみようと思ってもらえたら嬉しい。僕らにとって、コラボレーションを行う目的のひとつは、トラベラーズノートを使ってくれている人に、新しい旅や新しい何かをはじめるきっかけになってほしいという思いがある。そして、実際に旅をしたり、はじめたことをノートに書き留めてほしい。そんなことが、トラベラーズノートを手にすることで、使う人の生活に小さくても前向きな変化をもたらすことができたらいいなと思う。

 行きづらい分、地中美術館とのコラボレーションは、それなり手にいれるハードルは高くなってしまうけれど、そのことで、誰かのいつか行ってみたいリストに加わり、近くを旅する予定があった際に、ふと立ち寄ってみようかなと思い出してほしい。そんな意味でも、今回はトラベラーズらしいコラボレーションになったと思っている。

 僕も、昨年訪れてすっかり魅了された地中美術館にはまた行ってみたいし、あのときは定休日だった大竹伸朗が手がけた直島銭湯「I♥湯」に実際に浸かってみたい。さらに直島と同じようにアート施設がある豊島や犬島にも行ってみたい。直島を訪れるのであれば、倉敷もそれほど遠くないので、パートナーショップのT.S.L Kurashikiもあわせて立ち寄りたい。ついでにトラベラーズファクトリー京都に立ち寄ってトラベラーズ3都市ツアーにしたいな。なんて、考えるだけでワクワクする。

 ちょうど同じタイミングでリリースしたスターバックスリザーブロースタリーとのコラボレーションもそこに行ってあの場を体験してもらいたいとの思いで、行っているし、今週はまさにその場所に来ないと作ることができないノートバイキングのイベントを開催する。さらに、4年ぶりに開催するトラベラーズファクトリーのスタンプラリーだって、これをきっかけに旅するようにファクトリーを巡ってほしいとの思いで企画している。

 その場所を訪れ、空間を感じて、誰かと話をして、何かを感じるフィジカルな体験こそが旅の喜びであるし、やっぱりトラベラーズとしては、旅を促し、その楽しさを高めていきたい。Have a nice trip!