専用プロダクト
僕はマックブックのAirを使っているのだけど、持ち歩くときは専用の革のケースに入れている。革を2枚重ねて縫い合わせただけのマチもフタもないシンプルな構造で、Airのサイズにぴったりあわせて作られている。衝撃を吸収してくれないし、アダプターなどを入れるポケットも付いていないけれど、そういった余計なものはつけずに、レコードを入れるジャケットみたいなシンプルなケースがいいと欲しいと思い、自分で作ったのだ。
実はこのケースは2作目になる。以前は12インチのマックブックを使っていたのだけど、それがある日突然壊れてしまい、その上そのモデルが廃盤になってしまい(僕のお気に入りのモデルはよく廃盤になる)、しょうがないからとマックブック AIRを手に入れた。
新しいマックブック AIRは13インチなので、それまでの専用ケースには入らない。タイに出張に行った際にもらった傷もののトラベラーズノートの革で作ったお気に入のケースで、革に味が出てきて良い感じになっていたから、心残りはあったけど使えないものはしょうがない。そこで東急ハンズで革の端切れを買って、あらためてケースを作った。
最初に作ったのが、専用ケースじゃなければ新しいパソコンにも使えたんだろうけど、それだとジャストサイズの気持ち良さが味わえない。専用ケースは、汎用性なんてことをを考えない。潔くそれだけのために最適なものでなくてはない。だからこそ、ぴったりと入って気持ちよく使うことができる。僕はそんな専用のケースというものが好きだ。
専用ケースといえば、ヴィクトリノックスのクラシックSD、固形水彩絵具と水筆、リーディンググラスがそれぞれ入る、トラベラーズノートの革で作った専用ケースを5月にトラベラーズファクトリーで発売していて、僕も愛用している。
僕のクラシックSDのケースには、昨年のカスタマイズイベントで作ったコラボバージョンが収納されている。そもそもクラシックSD自体がリングに留めることができてキーホルダーのように使えるのだけど、このケースに入れることで、革の温かい雰囲気がナイフとしての存在感が和らいでくれる。僕は革のケースをキーホルダーにつけているのだけど、使うときには付属の持ち手をひっぱるとさっと取り出せるので、使うまでの動作が少なくてすみ、そのことで使う頻度も高くなったような気がする。この持ち手をつけるのは、試作を使っていくなかで思いついたアイデアで、これでかなり使いやすくなったと思っている。
続いて、固形水彩絵具と水筆用のケースは、このブログに掲載している絵を描くのに僕がいつも愛用している、レンブラントの固形水彩12色セットのケースと、サクラ水筆ペン小が収納できるという、かなりマニアックな専用ケースだ。だけど、固形水彩12色セットとサクラ水筆ペンは、トラベラーズノートに絵を描くというシーンにおいて、ほんとうに使いやすく優秀な道具なのだ。もう8年以上にわたって、毎週ほとんどこの2つの道具を使っているけれど、使うほどに愛着も湧くし、なにより描くことが楽しくなる。それを一緒にケースに入れることで、さらに持ち歩くのが便利で楽しくなった。
底に水筆を入れて、さらに水彩セットのケースを入れるとぴったり収まる。機能はそれだけで、それ以外の用途はまったく考えていない、完全な専用ケースなんだけど、固形水彩絵具はリフィルが発売されているし、ブリキのケースが壊れようのないくらいシンプルなもので、水筆も筆先が乱れたら新しいものを手に入れることができる。いまだに進化が激しいパソコンなどとは違って永く使えるのもアナログの良さだ。このケースはまだ使って間もないので、使うほどに革に味が出てくるのも楽しみ。
そして、リーディンググラスのケースも、完全に僕の好みで作らせてもらった。ここ数年、僕もすっかりリーディンググラス……というか、つまり老眼鏡が必要になってしまった。老眼鏡はいつも持ち歩くんだけど、普通のメガネと違っていつもかけているわけじゃないので、ケースが必要になる。だけど、他の多くのケースは、汎用性を考えてたいてい大きいものが多いし、メガネが壊れないようにハードケースが多い。そういったものはかさばって持ち歩きにくいから、そうじゃないものが欲しいと思っていたけれど、なかなか好みのものを見つけられなかった。
そこで、細身のものが多い老眼鏡のサイズにあわせてサイズもスリムにして、さらにメガネを安全に守ることよりもざっくり収納することに特化したシンプルなケースを作ってみた。トラベラーズノートの革を使って、あえて裏地も付けず、一枚革を縫っただけのシンプルなケースだ。ちょっとしたこだわりポイントとしては、ひもを付けているので、ネックストラップやバッグなどに留められるようになっていること。
2ヶ月近く使っているけど、使用上まったく問題なく心地よく使えている。もちろん踏んだらメガネは壊れるし、大きいサイズのメガネは入らない。だけど、そういった機能を諦めることで、そこにこだわらない人にとってはより使いやすいのが専用のいいところだ。
専用というのは、ひとつ間違えるとひとりよがりのプロダクトになってしまうこともあるし、多くの人たち指示されるものではないから、マスプロダクトにはなり得ない。だけど、僕らはまず自分たちが使いたいということがものづくりの一番の動機でありたいと思っているし、そもそも誰からも支持されるような大量生産のマスプロダクトは僕らの守備範囲外でもある。
それに正直に言えば、すべての製品がたくさん売れるわけじゃないし、かなり限定された方に向けたわがままな製品なのかもしれないけれど、そんな変わったものが少しはあってもいいかなと思っている。
「俺だけにしか分からない、と読者に思わせる作品」こそが素晴らしい作品だと吉本隆明氏が言っているように、まさに自分のために作ってくれたんだと思えるようなプロダクトが僕は好きだし、使う人がそんな風に思ってくれるようなプロダクトを作ることができたら嬉しいと思う。
そういえば、トラベラーズノートは、カスタマイズすることで、使う方にとっての専用ノートになる。他の方が使っているトラベラーズノートをたまに見せてもらうことがあるけれど、どれもその方専用にしか見えないところがいいんだよなあ。