2023年8月17日

日本一周 新潟-富山編 柏崎より

 拝啓、お元気ですか。
 僕は今、新潟県柏崎の日本海沿いにある小さな安旅館にいます。ちょうど朝ごはんを食べ終わり部屋に戻ったところで、出発前にこの手紙を書き始めました。外は暑いし、まだ昨日の疲れも残っていたので、チェックアウトの時間ギリギリまで、涼しい部屋で休んでいこうと思ったわけです。

 朝ごはんは、焼き鮭をメインに、納豆、温泉卵、ひじきの煮物、味付け海苔、たくあんに梅干しというラインアップ。決して豪華ではないけれど、いかにも日本の正しい朝食といった感じで食欲をそそります。普段はおかわりをすることなんてほとんどないのに、2杯目を茶碗によそうと温泉卵をご飯にかけて一気にかきこんでしまいました。ご飯を食べ終わると、宿の外に出て海まで歩いてみました。雲一つない青空に、太陽が日本海に反射して眩しく光っています。まだ朝8時を過ぎたばかりなのに、じりじりとした熱気を感じて、じんわりと汗がにじんできました。今日も暑い日になりそうです。

 どうして柏崎にいるのか説明しないといけないですね。昨日から夏休みなのですが、あまりの暑さに躊躇して迷っていたのですが、他にやることもないし、結局、トラベラーズバイクでの日本一周の旅を再開することにしたのです。今回のルートは新潟から富山です。夏休みの前日、仕事を定時で切り上げると、すぐに家に帰り、自転車を積んで上野発新潟行き新幹線に乗り込みました。そして、新潟のビジネスホテルに泊まり、昨日の朝、ホテルを出発して柏崎まで走ってきたのです。

 新潟から柏崎まで距離にして90キロ弱になります。1日の走行距離としては、決して楽ではないけど、これまで何度も経験している無難な距離です。だけど、遮るものがない直射日光に、35度を超える猛暑の中での走行は、思いのほか体力を削られ、なかなかきつい1日でした。

 朝、新潟のビジネスホテルを出てペダルと漕ぐと、30分もしないうちにTシャツは汗でびっしょりです。とにかく水分補給が大事だと思い、コンビニを見つけると500mlのペットボトルを買って、自転車のボトルケージに入れました。

 だけど、市街地を離れてしまうと、コンビニはもちろん、自動販売機もしばらく見つけられないことがあります。途中、最後の一口を飲み干してしまった後に、そんな事態に遭遇してしまいました。喉の渇きが抑えられず、休業日らしい工場の前を通ると、ここならありそうだと敷地の中に忍び込んでしまいました。駐車場にあった社員向けの自動販売機を見つけると、思わずほっとして、お金を入れてお茶のボタンを押しました。販売機から出てきた冷たい麦茶は感動的なおいしさで一気に飲み干すと、すかさずもう一本買いました。こちらの工場の方には勝手に侵入したことを謝らないといけないですね。でもおかげさまで生き返りました。

 その後も、コンビニや道の駅を見つけるたびに休みながら自転車を進めていきましたが、暑いせいかいつもより早く体力の消耗していくようです。この日の予定の8割ほど進んだところで、長い上り坂を登っていると急にひざがつるように痛くなりました。しばらく自転車を降りて休むと痛みはひくのですが、また自転車を漕いでしばらくするとツーンと足がつります。こんなことは、はじめての経験です。宿まではもう少しあるし、このままだとキツいなあと思いながら、自転車を押して歩いていると、入浴施設がある市民交流センターを発見しました。そのときは、砂漠の中でオアシスを見つけたような気分になりました。

 まずは今日の宿に電話をして、到着が少し遅くなることを伝えると、ガクガクする足をひきづるように歩いてお風呂に入りました。1時間ほどお湯に浸かりながら、足をマッサージしたり、露天風呂の横で椅子に座って涼しい風にあたっていたりしていると、足の痛みも少し回復し、元気になってきました。

 嬉しいことに、そこからはしばらく下り道です。ペダルをほとんど漕がずに走っていくと、日本海が見えてきました。時間は18時30分。ちょうど太陽が海に沈んでいくタイミングです。僕は自転車を停めて、空をオレンジ色に染めていく美しい夕日をしばらく眺め続けました。なかなか大変な1日でしたが、なんとかなりそうです。夕日をのんびり眺めたことで再び元気をもらい、それから1時間ほど走り、8時を過ぎた頃にやっと宿に着きました。

 宿はお世辞にも快適とは言い難い場所でしたが、汗でびっしょり濡れたTシャツに短パン姿の自転車での一人旅には充分です。暑いなかで足を痛めながら走っていた時間を思えば、クーラーの効く部屋で、安心してふとんで寝ることができるだけで大満足です。お風呂に入ってからいただいた夕食は、疲れ切って、お腹も空いていた僕には最高のご馳走でした。

 さて、そろそろチェックアウトの時間になります。今日の目的地は直江津です。距離は昨日の半分くらいなので、ゆっくり走ろうと思います。そちらも暑い日が続くと思いますが、ご自愛ください。

2023年8月11日 柏崎より
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 ブログを検索をしてみると、トラベラーズバイクで日本一周をはじめたのが、2014年の夏休み。9年前にことだった。このときは日本一周なんて意識はなく、ただなんとなく東京から北を目指して走ってみようと思い白河まで走った。その翌年、その続きをしてみようと電車で白河まで行き、そこから仙台まで走ると、このままこれを続けたらおもしろそうだと考えて、だったら日本一周を目標にしようと思った。

 あれから9年。その間には夏休みに入院したり、別の場所に行くことがあったり、コロナがあったりで、毎年行けているわけではないけれど、東京ー白河、白河ー仙台、仙台ー盛岡、盛岡ー青森、青森ー秋田、秋田ー新潟、そして、新潟ー富山と、本州をぐるっと半周まわることになった。

 夏休みという限られた日程になるし、そもそも持久力もないため、常に最短ルートを走り、名所やおもしろそうな場所があっても、通り道になければよりみちをしない。1日走る距離は、本格的なロードバイク乗りからすると、お話しにならないような短い距離をゆっくり走る。旅の間はほぼ走っているか、休んでいるかのどちらかで、観光もイベントもアミューズメントもほとんどない。どうしてことをやっているんだろうと思うこともあるけれど、自分でルールを決めて、自分で責任を負うことができる一人旅の楽しさが、存分に味わえるのがいい。

 ルールはとにかく日本を一周するために、ルートを数珠繋ぎで結んでいき、自転車で進んでいくということ。走ったことのない場所を走るのはそれだけで楽しいし、日本一周をしなければ一生足を運ぶことがないような場所に行くこともできた。ここ数年は、青森から富山までの日本海側を走ってきたけれど、進むにつれて少しずつ変わっていく風景や文化を感じることができるのも楽しい。なにより、ゆっくり自分の足で進んでいく自転車での旅が、かつての松尾芭蕉や弥次喜多の旅を想起させ、旅の原点みたいなものを感じさせてくれるような気がする。

 54歳の僕があと何年自転車に乗ることができるかわからないけど、9年で本州を半周だと、生きているうちに日本一周を完遂するのは厳しいような気もする。だけど、自分だけのルールだから達成できなくても誰かに迷惑をかけるわけじゃないし、大きな喪失感を味わうこともなさそうだ。ただ、人生にそんなちょっとした目標があるのは、なかなか楽しい。

 話は変わりますが、今週末8月19日より、ひさしぶりに自由に色や形を組み合わせて自分だけのボーダーシャツを作ることができるG.F.G.Sのオーダーボーダーが久しぶりにトラベラーズファクトリー中目黒で開催されます。今回は、トラベラーズファクトリーだけのオリジナルカラーにオリジナルワッペンなどもご用意しています。8月20日(日)は代表の小柳さんも在店してくれます。私もこの日にお店にいる予定ですので、ぜひ遊びに来てください。