2010年7月27日

インドの寝台列車


 
20年前、はじめて乗った寝台列車はインドのニューデリーからバラナシ行きの2等寝台でした。やっとの思いで切符を購入し、電車に乗り込むと自分の座席にはすでに別の人が座っています。切符を見せて、そこを代わってもらうように言うと、立たずに席を詰めて、なんとか私たちが座ることができるスペースを開けました。
 
2人掛けの席に4人がぎゅうぎゅうになって座っていますが、席はきっと2人ぶんのはず。でも、どんどん人が乗り込んで、車内は満員電車のような混み具合になってきました。なんとか切符に明記された窓際の席を確保すると空気を入れ替えようと窓を開けました。すると、物乞いの指のない手のひらが窓の外から差し出されてきました。思わずぎょっとなり、目を逸らして窓を閉めてしまいました。
 
そして、電車はゆっくりと駅を出発しました。電車が動きだしても、車内は落ち着いた様子を見せてくれません。横では噛みタバコを噛んでいる男が、何度も私たちの前に体を突き出し、窓の外にタバコのカスを吐き出しています。前の席の男は、何かの豆をむしりながら食べてそのカスを私たちの足の前に投げ捨てます。一度行ったトイレは、ドアを開けた途端に目を背けたくなってしまうような状態で、二度と入りたくない。夜になると、乗務員が席を倒してくれて、横になることができましたが、寝ている間も人のベッドの端っこに腰をかけている男の背中があたってゆっくり眠ることができませんでした。
 
それでも朝になって明るくなると、清々しい気分になります。駅で売っていたカレー味のジャガイモを買って食べたりして、電車の旅を楽しむ余裕が出てきました。
 
人混みの車内をぬってチャイ売りがやってきます。甘いミルクティーは、素焼きのカップに入っていて飲み終わると、窓の外へみんな投げ捨てます。するとパリンといい音が鳴って割れます。そのまま土に帰るので、環境にも優しいシステム。私たちも面白がって、外に投げ捨てみました。
 
朝の車窓の風景もインドならでは。村を走っていると、線路の脇で電車側にむかってしゃがんでいる男を何人も見る事ができます。実は、これは朝のトイレタイム。思わず目があってしまい慌てて目を逸らしました。
 
さらに極めつけだったのが、窓を開けて外を眺めていたら、子供たちが私たちにむかって水をかけてきたこと。駅に近付き電車がゆっくりになると、子供が楽しそうにバケツやホースを私たちにむけて、水をかけます。さらにひどいのは、水風船に色のついた粉をまぜた水をいれたものを投げたり、牛のふんを投げてきたりします。暑いのに、慌てて窓を閉めなくてはなりません。これは、ちょうどその時期にインドの水かけ祭りホーリーが近づいていたためだと後に分かりました。
 
その後、何度か寝台列車に乗りましたが、この最初のインドの思い出が一番鮮烈な印象とともに、記憶に刻まれています。先週のインドでの列車衝突事故のニュースを見て、そんなことを思い出しました。きっと、事故のあった列車の中でも同じような光景が繰り広げられていたのでしょうね。事故で亡くなった方のご冥福をお祈りします。
 

 
(写真はインドではなくタイで撮影したものです)