2012年1月16日

Growin' Up


 
大学時代の冬休み。海外旅行のお金を稼ごうと、年末から正月にかけて、信州の温泉旅館で住み込みのアルバイトをすることにしました。 電車とバスを乗り継ぎ、停留所からは宿の車で移動して、着いたのは雪深い山間の静かな湖畔にある宿。ちょうど年末の休みが始まったところで、宿の仕事は思ったより慌ただしいものでした。
 
夕方、お客様がやってくると、まずは夕食のお膳の準備。皿を並べて、盛りつけを手伝います。お客様への配膳は女性の仕事。男は、お客様が食事中に、各部屋の布団敷きをします。短時間で数多く捌かなければならないので、スピードが勝負。慣れないうちは、もたついてよく怒られたりしました。布団敷きが終ると、食事の片付けと皿洗い。一通り仕事が終って、夕食にありつけるのは日付が変わった頃でした。
 
朝は5時に起きて、朝食の御膳の準備です。それが終ると、今度は布団の片付け。10時にお客様がチェックアウトをして帰ると、部屋や風呂場を掃除してお昼。お昼から夕方までは、自由時間になります。
 
一緒にいる時間が長いため、バイト仲間は必然的に仲良くなりました。バイト仲間のリーダー的な存在は、一番の古株で半年ほど働いている私より2、3歳上のNさん。面倒見の良い彼は、みんなをカラオケやボーリングに誘ったりして、バイト仲間の交流を深めてくれました。
 
住み込みということで、駆け落ちのように家を出て来たカップルがいたりして、どこかワケありな感じの人が多く、普段の生活ではなかなか出会えない別の世界の人達との交流が新鮮で楽しかったりもしました。正月休みが終ると、バイトも終わりです。お世話になったNさんとは、東京に来た際に飲みに行こうと約束して別れました。
 
それから数週間ほどして、Nさんから連絡がありました。休みをもらって東京に用があってやってきたとのことで、飲みながら、久しぶりに宿の仲間たちの話をして盛り上がりました。遅くまで飲んで帰れなくなったので、その日は私の家に泊まりました。翌朝、Nさんはサイフを飲み屋に忘れて来たとのことで、お金を貸してほしいと言われました。それまでのNさんの振る舞いから、全く疑うことなく、手持ちのお金を少し貸しました。
 
Nさんと別れた日の夜、今度はバイトをしていた温泉旅館から電話がありました。電話によると、Nさんがバイト仲間みんなからお金を借りまくって、消えてしまったとのこと。そっちに行っても貸しちゃだめだぞ・・・という言葉を聞いて、呆然としてしまいました。私は手持ちがなかったので、5000円ほどで済みましたが、いままでの稼ぎをほとんど貸してしまった人もいたそうです。
 
ワケありの人たちが仕事を求めて集まるどこか退廃的な温泉宿の雰囲気、信頼していた人からの完全な裏切り。それは、まるでドラマや映画のなかのことのようで、今までのどちらかというと平和で温かい人たちに囲まれた生活をしていた私にまったく違う世界があること教えてくれました。 
 
不思議とNさんに腹をたてることもなく、ただ、今までより少し大人になったような気分になりました。悲しいけれど、これからも同じような経験をするのかもしれないという小さな覚悟が生まれたような気がしました。この季節になると思い出す、ちょっと切ない記憶です。