Driving from LA to Palm Springs
ロードムービーの傑作『パリ・テキサス』では、アメリカを車で走るシーンがたくさん登場する。前半は失踪していた主人公トラビスがテキサスの田舎町で見つかり、その弟がLAに連れて帰る姿を描く。飛行機に乗るのを嫌がるトラビスのためにレンタカーを使い、ロードサイドのモーテルに泊まりながら、数日かけて車でLAまで走り続ける。
妻と息子を投げ出して失踪した兄と、その息子を自分の子供として育てている実直な弟との2人の旅は、お互いあまり言葉を交わすこともなく、暗いトーンの緊張感を感じる。それでも、淡々と変化ない道を走る旅を続けるうちに、最初は記憶喪失のように言葉を発することがなかった兄は、少しずつ弟に心を開いていく。
後半は、トラビスと幼い息子が、その母親であり元妻に会うためにまた旅に出る。テキサス州ヒューストンまでの長い道のりを車で走りながら、前半の旅と同じように旅を通じて親子の関係を少しずつ修復していく。僕にとって、ドイツ人監督がアメリカを描いた『パリ・テキサス』こそが、アメリカの車での旅を強烈に印象付けていて、映画によって作られた原風景を探すことに、ずっと憧れがあった。
今回のアメリカの旅では、ロサンゼルスとニューヨークでのイベントの間を利用して、車でパームスプリングスまで行く機会を得ることができた。パームスプリングスは、ロサンゼルスから東に約180キロの場所に位置する都市で、今回ロサンゼルスとニューヨークでイベント会場となったエースホテルもある。
僕らはロサンゼルスを朝に出発し中心地を抜けると、あえてハイウェイを降りて、よりその土地の様子を感じることができる国道線を進んだ。ワクワクしながら、ダイナーでアメリカでの朝食の定番のパンケーキやフレンチトーストを薄いアメリカンコーヒーと共に食べ、延々と続く貨物列車が通り過ぎたり、巨大なパームツリーが連なるロードサイドや緑がほとんどないゴツゴツした砂漠地帯の山を眺めながら車を走らせた。
パームスプリングのエースホテルは、かつてのアメリカのモーテルをかっこよくリノーベーションして作られていて、古き良きアメリカを感じさせてくれてる、とても素敵なホテルだった。夜まで少し時間があったので、どこかに行こうかとみんなで話をしていると、橋本がネットを見ながら「近くにヨシュアトゥリー国立公園というのがありますよ」と言った。
嘘みたいな話だけど、ちょうどそのタイミングでラジオでU2のWith or Without Youが流れてきた。その曲は、僕が高校生の頃にヒットしたU2のアルバム『ヨシュアトゥリー』に収録されている。ジャケットには、アメリカの荒涼とした砂漠をバックにメンバーが立っているモノクロの写真が使われていて、ジャケット裏にはアメリカの原野を象徴するかのようにヨシュアトゥリーが写っている。そんなシーンの中にあるトラベラーズノートの写真を見てみたいと思った。
慌てて車を走らせてその公園に向かったけれど、やはりアメリカの近くは、日本のそれとは違って、たっぷり1時間以上車を走らせなければならなかった。日が沈むギリギリにその公園にたどり着くと、あのジャケットにある荒涼とした大地とヨシュアトゥリーが、赤と青のコントラストが美しい夕焼けの空をバックに見えた。
アイルランド出身のロックバンドU2は、5枚目のアルバム『ヨシュアトュリー』によって、ブルースやカントリーなどのアメリカのルーツミュージックの影響を色濃く受けながら、ブライアン・イーノなどのプロデューサー陣の力もあってU2サウンドとしか言いようがない独自のサウンドを確立。それが大ヒットし、アメリカでの圧倒的な成功を得ることにつながった。
カーステレオでiPodに入っていたU2を聴きながらトラベラーズノートをアメリカで広めたいとキャラバンイベントをしている自分たちと、その音楽を照らし合わせていた。もちろんレベルはぜんぜん違うんだけど、そんなことが意図せず頭に浮かんでしまうのは、旅の高揚感がもたらす効用なのかもしれない。
すっかり暗くなり寂しくなったアメリカの田舎道をホテルへ戻るために車で走りながら、高校生の頃に出合った映画『パリ・テキサス』のシーンを思い出し、同じく高校生の頃に出合ったアルバム『ヨシュア・トゥリー』のことを考えた。道はずっとつながっているんだなあ。