2020年11月 9日

Holiday Season is coming

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僕が学生時代を過ごした1988年から1992年は、まさにバブル景気の時代とぴったり符号している。だけどテニスやスキー、DCブランドにディスコなどに縁がなく、八王子の山奥にある大学でバンドメンバーたちとグダグダとくだをまいて日々を過ごしていた僕らにとって、バブル景気の実感はほとんどなかったし、トレンディドラマやファッション雑誌などで語られていたいわゆるバブル的なライフスタイルは、カウンターカルチャーにとっての保守的ブルジョア文化のように、唾棄すべき世界だと思っていた。まあ、分かりやすく言ってしまうと、単に冴えないひねくれ者だっただけなんだけどね。
 
そんなわけで、当時クリスマスといえば、イヴに赤坂プリンスなどの高級シティーホテルを予約して夜景のきれいなレストランで食事をして、ティファニーのネックレスなんかをプレゼントするのが理想の過ごし方だ、なんて雑誌に書いてあるのを読んだりすると、なにがクリスマスだよ......と鼻で笑っているふりをしていた。だけど、やっぱりひとりで過ごすのも寂しいから、わざわざイヴにひとり暮らしの友人の部屋に仲間が集まり、クリスマスソングを聴かないで、パンクロックを流しながら、グダグダ文句を言って、お酒を飲んで過ごたりしていた。分かりやすく言ってしまうと、もてない同士で傷の舐め合いをしていたのだ。
 
はじめて恋人と呼べるような人ができて、最初のクリスマスを迎えた時だって、わざわざイヴにコンビニのバイトのシフトを入れて、特別なことをしない言い訳を作っていた。だけど深夜にバイトが終わる頃に、彼女が店まで来てくれて、そのままデニーズに二人で行って、コーヒー一杯で夜が開けるまで話をしたのは、なかなか親密で素敵な思い出でもある。
 
その後、子供ができたりして、クリスマスの過ごし方も変わってきたけれど、それでもクリスマスが近づくと、寂しさとともにどこか居心地の悪く落ち着かない気分になった。
 
そんな気分にちょっとした変化がおきたのが、トラベラーズファクトリーができてからだった。9年前、トラベラーズファクトリーができてはじめてクリスマスシーズンを迎えた時、ここに来てくれた方々のクリスマス気分を盛り上げたいと、ツリーやイルミネーションをみんなで飾っていると、自然に心が踊ってきて、素直にクリスマスっていいなと思うようになった。

その年のイヴの日には、トラベラーズファクトリーの二階にキャンドルをたくさん並べて、キャンドルナイトイベントまで開催した。クリスマスソングが流れる中でゆらゆら揺れるロウソクの炎を眺めなら、ダンラナチュールのなっちゃんに用意してもらったケーキやワインをいただくという、安直ではあるけれど、なかなかロマンチックで素敵なイベントだった。それほどお客さんが来たわけではなかったけど、その分クリスマスらしい静かでしんみりした空間で過ごした時間は、とても楽しかったな。
  
星新一氏のショートショートで、こんな話があったのを思い出す。かねてより地球を調査していた宇宙人が、戦争や差別が絶えない地球の人間をこのまま放置しておくと、いつか自分たちの星へ攻めてくると危惧し、今のうちに滅してしまおうと攻撃に向かう。すると、地球には、憎悪も争いもいっさいなく、人々はみんな穏やかで笑顔に満ちている。宇宙人は争いが絶えないという調査報告は間違いだったと考えて、引き返していくのだけど、実はその日は、地球が最も平和なクリスマスだったというオチで終わる。
 
僕が思うクリスマスの理想のイメージとして鮮明に記憶に残っている(はるか昔、まだ中学生だった頃に読んだだけなので実際の話はちょっと違うかもしれないけど。今思うと、僕の半分以上はあの頃読んだ本や、観た映画、聴いた音楽でできているような気がする)。
 
最近、アメリカでは特定の宗教にフォーカスすることを嫌い、クリスマスシーズンをホリディシーズンと呼ぶのが一般的になっているそうだ。だけど、この時期は宗教に関係なく、家族や友人、恋人にカードやプレゼントを贈りあい、笑顔が満ち溢れる時でもある。
 
クリスチャンでもないし、教会に特別な縁もない僕にとっても、クリスマスは人恋しさとともに、かつての親密で温かい記憶を呼び起こしてくれる、ちょっと特別な季節だ。時には孤独感を際立たせることもあるけど、大人になることで、そんな気分もまた楽しめるようなったのかもしれない。
 
クリスマスが近い夜のトラベラーズファクトリー。センチメンタルな旋律のクリスマスソングが流れる店内で、少し悩んだ面持ちで誰かへのギフトを探しているお客様を目にすると、なんとか手助けをしてあげたいと思うし、やっとの想いで決めた商品をスタッフが素敵にラッピングして、それを笑顔で受け取ってくれた時はなんとも言えない幸せな気持ちになる。
 
人が他の人の幸せを素直に喜び、世界が平和であることを純粋に願うことこそ、クリスマスが人々もたらしてくれる素敵な心持ちだと思うし、トラベラーズファクトリーが少しでもそのお役に立つことができたら、嬉しいと思います。特に、今年はいつもとは違って多くの人にとって大変なことがあった年だと思うので、より強くそう思います。
 
トラベラーズファクトリーでは、店頭では11月11日より、オンラインでは12日よりクリスマス向けのいろいろを展開します。詳細は、トラベラーズファクトリーのサイトに掲載しますので、そちらをご覧いただきたいと思います。毎年クリスマスシーズンが近づいてくると、トラベラーズファクトリーにのそのそやってくるシロクマがいるのですが、今年はいつもと違う装いで登場しますので、ぜひ。
 
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