2020年11月24日

At Tokyo Station

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4月からはじめた自転車通勤はまだ継続中で、寒くなったらオフシーズンということで休みにしようと思っているけれど、11月後半になっても暖かい日が多く、今も週の半分くらいは自転車で通っている。
 
夜にオフィスがある中目黒を出て、六本木から皇居までの長い坂道を下り、東京駅が見えてくると、残りはあと半分くらい。この日は、ちょっとした用があったので、東京駅の前に自転車を止めて、閉店ぎりぎりのタイミングで、トラベラーズファクトリー ステーションに立ち寄る。店長から頼まれていた、クリスマスバージョンのプレイリストを入れたiPodを持ってきたのだ。
 
トラベラーズファクトリーのクリスマス用BGMは、9年前のオープンの年に作ったプレイリストを毎年更新しながら使っている。最初は、それまでは自分からクリスマスソングを聴くことなんてほとんどなかったから、個人的にクリスマス向きかなと思う曲を集めて作ってみた。
 
だけど、そうやってできあがったプレイリストを客観的に聴いてみると、クリスマスデートに女の子とロマンチックな気分になるために作った下心たっぷりのミックステープみたいで(残念ながらそんな経験はないけど...)、その後、こつこつクリスマスソングを集めながらリストを更新し、今にいたっている。
 
あらためて聴いてみると、クリスマスソングにもいいなぁと思う曲が多いことにも気づいて、食わず嫌いだった食べ物をふとしたきっかけで食べてみたら、意外と美味しいことに気づいて、いろいろな店を巡りその食べ物を食べ歩くみたいに、さまざまなアーティストがリリースしたクリスマスソングを探して聴くようになった。
 
毎年この季節にしか聴かない曲があるというのも、素敵なことだと思うし、プレイリストを聴くと、ロマンチックだったり、物憂げで感傷的だったり、心がスッとするような神聖な気分だったり、それらが複雑に入り混じったクリスマスの特有の感覚がふわっと心の中にわいてくる。とういうことで、そんな感覚を呼び起こしてくれる個人的クリスマスソングベスト5を。
 
1. Christmas Wish / NRBQ
2. Fairytale Of New York / The Pogues
3. Christmas Time Is Here / Vince Guaraldi Trio
4. Just Like Christmas / Low
5. River / Joni Mitchell
 
さて、スタッフにiPodを渡して念のため音が出るかチェックすると、プレイリストの最初の曲、トム・ウェイツの「Ruby Arms」が流れてきた。例のおどろおどろしい歌い方で「クリスマスまでにはきっとお前を抱いてくれるやつが現れるよ」なんて言う、キザな別れの歌だ(名曲です)。「じゃあ、よろしくね」駅前に止めた自転車が気になっていたので、僕も早々に別れた。
 
東京駅を出ると、最近はじまった丸の内のイルミネーションが見えたので近くまで行き、道路の脇に自転車を止めた。そして、iPhoneにも入れておいたクリスマスのプレイリストを聴きながら、しばらくひとりでイルミネーションを眺めた。
 
ブランドショップが並ぶ道の両脇の街路樹に、満開の桜のように灯されたイルミネーションはきれいだけど、ほとんどの店が閉まり、歩く人も少なくどこか寂しげな印象を与えた。
 
イヤフォンからは、「傷ついた天使」と評されるブライト・アイズのコナー・オバーストが世界中のメランコリーを代弁しているかのように歌う「ブルー・クリスマス」が流れてくる。満点の星の下、誰もいない北極圏の大海の上を独りで浮かんで漂うラッコになったような気分で、僕もメランコリーの海の上を漂っていた。「alone(独り)の語源は、all one(みんなひとり)なんだ」最近見た映画のセリフを思い出した。
  
ふと携帯をチェックすると、「遅い時間で申し訳ないけど確認したいことがあるのですが...」と京都からのメッセージ。実は来月に開催しようと計画している京都でのイベントのことで、ちょっとしたトラブルがあって、そのことで聞きたいことがあるとのこと。ひとことで説明できない内容だったので、とりあえずiPhoneでイルミネーションの写真を撮ってメールで送ると、リュックを肩からおろしてベンチに座ってから電話をいれた。
 
「あれはね...」何の考えもなく電話をしたのだけど、過去の体験を俯瞰し、記憶を辿りながら、抽象的なイメージを言葉に置き換えていくことで、ぼんやりと考えていたことが明確になっていくことに気づいた。電話の向こうでは、もう他に誰もいない夜の薄暗い店内で静かに耳を傾けているのだろうか。言葉として発するにつれて、少しずつ霧が晴れるように、向こう側の風景が姿を表してくるような気がした。
 
「きっとうまくいくよ」なんの根拠もないのに、それが明白な事実であるかのように僕は言った。
 
京都のイベント。まだ先行きが不透明なことも多いし、詰めていかなければこともあるけど、なんとか実現したいな。その日はうまくいかなかないことにちょっとした心配事もあったんだけど、電話を切ると、少し晴れやかな気分になって、また自転車に乗った。
 
イヤフォンからは、NRBQの「Christmas Wish」が聴こえてきた。「メリークリスマス、メリークリスマス、1年間のすべての夢が実現する時だよね」いろんなことがうまくいくといいな。
 
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