2024年12月 2日

もうすぐクリスマス

 アメリカから帰国以来、疲れが溜まっていたり、雨だったり、朝早いミーティングがあったりして、しばらく控えていた自転車通勤を先週久しぶりに再開した。立て込んでいた仕事を片付けて、少し遅い時間に自転車に乗ると、予想以上に空気が冷たい。ジャケットのジッパーを首まで上げて、カバンの奥に忍ばせていた手袋を今年初めて付けた。東京駅の前まで走ると、丸の内のイルミネーションがはじまったようで街路樹はキラキラと輝き、歩く人は写真を撮ったり、ベンチに座って楽しそうに話をしている。街にやっとクリスマスの雰囲気が漂ってきたみたいだ。

 トラベラーズファクトリーもクリスマスの定番、シロクマのレザータグやブラスバッジなどをはじめ、チェコのラインストーンのクリスマスツリーにオーストリアのスノードームなど、クリスマス向けの商品が並んでいる。中目黒ではツリーやリースに、電飾の飾り付けが施され、夜になると、クリスマス特有の華やかなだけど、どこか寂し気で凛とした空気が漂っている。

 そういえば、先日若いスタッフ二人と中目黒でクリスマスの飾り付けをしているときのこと。「クリスマスってなんか物悲しくて憂鬱な気分になるよね」と僕が言うと、「そうですか」と返され、どうも共感が得られない。「たとえばさ、高校生とかになって、クリスマスイブに家にいて、家族と過ごすのっていやじゃなかった?」とさらに言うと、「いや、別にそんな風に思ったことはなかったです」と答える。僕はただ「そうなんだあ」と言うしかなかった。

 そこでふと気づいたんだけど、つまり僕がクリスマスに寂しさとか憂鬱を感じるのは、単に自分がイケてなくて卑屈な青春を過ごしたせいでそうなっただけで、必ずしも他の人はそんなことは感じていないのかもしれない。

「クリスチャンでもないし、クリスマスだからといってプレゼントを交換したり、恋人と一緒にいなきゃいけないなんて、そんなの俺は関係ないね」なんてうそぶきながら、それでもクリスマスが近づき、街並みが華やかになるにつれて孤独感が深まる。さらに楽しそうに歩くカップルなんて見ちゃうと、それだけでもう心が沈んでしまう。

 思春期にそんなクリスマスを過ごすことが多かったからか、今でもなんとなくこの時期になると心にモヤモヤした暗い影みたいなものが漂ってくる。でも本当なら自分だって、素直にクリスマスを楽しめるような人になりたかったんだけどね。

 そんな僕でも、店内をクリスマスの装いに飾っていくのは好きな時間だ。ここに足を運んでくれるお客さんが喜ぶ姿を想像しながら飾り付けをしていると、サプライズパーティーの準備をしているような気分になる。

 休業日でお客さんは誰もいないのに、ロマンチックな気分を盛り上げるべくクリスマスバージョンのBGMを流して飾り付けを楽しんだ。飾り付けが終わりすっかり暗くなると、電飾のスイッチをオンにして、クリスマスの雰囲気が漂う店内をしみじみ眺めながら写真を撮った。

 キラキラと電飾が灯る店内は、華やかなのにやっぱりどこか寂し気で、なんとも言えない孤独を感じさせる。でも、その感覚は実は嫌いではない。まるで宇宙の果てに解き放たれて、無重力空間をたった一人で漂っているような孤独感に襲われるのと同時に、ロウソクの火に手をかざしたようなほのかな温もりが湧き上がってくる。そして、自分と他人とのささやかでゆるい繋がりすらも愛おしくなり、誰かと話をしたくなる。密かに心に抱く小さな夢を励ますような、傷ついた心に癒しになるような、そんな言葉をそっと誰かに語りかけたくなる。世界の平和を心から願いたくなる。

 店内に流れるクリスマスソングのBGMが、ジョニ・ミッチェルの『リバー』に変わった。

Oh, I wish I had a river so long
I would teach my feet to fly
I wish I had a river 
I could skate away on
I made my baby say goodbye

It's coming on Christmas
They're cutting down trees
They're putting up reindeer
And singing songs of joy and peace
I wish I had a river I could skate away on

ここに川があればいいのに ずっとそう願っている
そうしたら、ここから駆けつけられるのに
川があれば、スケートで滑っていけるのよ
愛する人にさよならを言わせちゃったの

もうすぐクリスマス
みんなモミの木を切って、トナカイの置物を飾って
喜びと平和の歌をうたっている
川があれば、私もあなたのもとへ滑っていけるのに

 飾り付けが終わり、トラベラーズファクトリーを出ると、なんとなくこのまま帰る気になれず、若い二人に「軽く飲んでいく?」と誘った。

 12月になって、今年もあと1か月。これを読んでくれている人もそうでない人も、自分も含めて、みんなのいろんなことがうまくいくといいなあと思います。クリスマスシーズンにあわせて、spotifyでプレイリストを作ってみましたので、ご興味のある方は、下のシロクマの画像をクリックしてみてください。