2025年3月 3日

A REAL PAIN and Choice

 先日、「リアル・ペイン〜心の旅〜」というアメリカ映画を観た。この映画にトラベラーズノートが出てくるという話を聞いて観てみることにしたのだ。

 映画は、しばらく疎遠だった従兄弟同士が、亡くなった最愛の祖母の遺言で、祖母の出身地のポーランドを旅するロードムービー。祖母は、ナチスによる迫害によってアメリカに逃れたユダヤ人。ユダヤ系アメリカ人である従兄弟同士は、自らのルーツをめぐるツアーに参加する。臆病なくらい生真面目で優等生のようなデヴィッド、明るく社交的だけど自由奔放で自己中心的、感情が不安定で社会にうまくなじめないベンジー。従兄弟同士の二人の性格は正反対。そんな二人が、アウシュビッツや祖母の生家への旅を通じて、それぞれの痛みや生きづらさみたいなものを向き合っていく。正反対の二人にどこかしらシンパシーを感じる部分があって、それが自分の生きづらさを露呈していく。

 大きなクライマックスもなく淡々と物語が進んでいく地味な映画だけど、しみじみと味わい深い良作だった。

 ちなみにトラベラーズノートは、彼らを案内する英国人のツアーガイドの持ち物として登場する。旅程の説明をしたり、ツアー参加者の先導する際に、いつもトラベラーズノートを手に持っている。最初に画面に登場したときは、ついトラベラーズノートに見入ってしまい、字幕を追うのを忘れてしまった。ストーリーの流れとは関係なく、このガイドは、トラベラーズノートを出身国であるイギリスで手に入れたのか、それとも現在の仕事場であるポーランドで手に入れたのだろうか、なんてことを考えてしまった。

 現在、イギリスでもポーランドでも、この映画の制作国のアメリカでもトラベラーズノートは販売されているし、パートナーショップだってある。良作ではあるけど、地味でそれほど予算が大きくなさそうな映画「リアル・ペイン」。その画面の中で強い主張もせず、脇役のようにトラベラーズノートが登場する。さらにそのことが特別話題にもなっていない(この映画にトラベラーズノートが出ていることも、ネットとかお客さんからではなく、たまたまこの映画を観た社内の関係者から聞いて知った)。

 世界のどこかで、なにものでもない普通の人のなんでもない日常の中に、トラベラーズノートが存在している。映画を通じて、リアルにそれを感じることができたのだ。トラベラーズノートが発売されて、もうすぐ19年になる。そのことを特別目指してきたわけではないけれど、しみじみと感動した。

 週末は、Ko'da Styleの帆布バッグとshort fingerのニット帽の受注イベント「Choice」の手伝いでトラベラーズファクトリーにいた。初日の夜にはいつものように打ち上げというか、決起集会のように、Ko'da Styleのこうださん、short fingerのまみさんを囲んでお酒を飲んだ。まみさんとは7年、こうださんとは、15年くらいの付き合いになる。

 まみさんは、ニット帽やカシミアのセーター、こうださんはバッグ。どちらもハレの日や特別なシーンで使うものではなく、日常で使うニット帽とバッグだ。だけど手にすることで、なんでもない日常がちょっとだけ楽しくなり、心が前向きになれる。トラベラーズノートが目指しているのもそういった日常の道具だ。

 来年還暦を迎えるこうださんは、Ko’day Styleをはじめてもう27年になる。その間には、いくつものこうださんが作ったバッグが誰かの手に渡り、今も誰かの日々の暮らしに寄り添っている(僕もその一人だ)。まみさんもそう。自らものを作り、使う人に届けることを生業として生活をしている。お二人とも、自分一人でブランドを運営していくことにこだわり、自分のペースを大切にしながら続けている。そんな暮らしこそ、ものづくりの原点であり、尊敬するし、憧れる。

 こうださんは、裏の刻印がMIDORIの時代からトラベラーズノートを使ってくれている。茶の革カバーには、白い塗料をコップのふちでスタンプのように押してつけた丸いリングの模様がある。さらに、short fingerのカラフルな組み紐を、しおりとして使うには多すぎるくらいたくさん付けているのだけど、それもこうださんらしい味付けになっている。

 僕のトロールには、トラベラーズノートにペンケースと水性絵の具セットを入れて、お絵かきセットのように持ち歩いている。いつもこのブログにアップしている絵は、このお絵かきセットを使って描いている。

 どちらも特別なときにだけ使うものではなくて、日々の暮らしに寄り添う日常の道具であり、旅の道具でもある。そして道具として使うだけでなく、作り手と定期的に会い、一緒に仕事をできるのが嬉しい。それが10年以上続いているのも、ほんとうにありがたい。

 映画「リアル・ペイン」は、大きなクライマックスもないまま旅が終わったところでラストを迎える。大きな悲しみや喜びがあるわけではないし、なにも解決はしていないまま終わる。ただちょっとした痛みを伴ったまま、また新たな日常が続いていくことだけを予感させる。でも、人生ってそういうものだと思うし、それでもがんばって生きていくことこそが素晴らしい。

 「リアル・ペイン」は、だいぶ上映館が少なくなっているようだけど、興味があったら観てほしい。Ko'da Styleのトロールとshort fingerのタッセルは、オンラインでも販売しているので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。

 話は変わりますが、今週3月6日に、来月発売するトラベラーズノートの新商品情報を公式サイトにアップします。こちらもぜひ楽しみにしてください。