ダイアリーのテーマ
他社の来年のダイアリーは、もうカタログが出揃い、サンプルを並べた展示会が行われているというのに、トラベラーズノートの2026年ダイアリーは、今まさにデータ入稿真っ最中というタイミングで、日々バタバタしている。
この他社と比べると圧倒的に遅い進行スケジュールには、実は理由がある。もともとも、トラベラーズノートは2006年の3月に発売したのだけど、発売後、まあまあ売れるということが分かって、4月に2007年版のダイアリーを発売することを決めた。
ただ、このタイミングではミドリの翌年のダイアリーは、既にラインアップもデザインも決まっている段階だった。だけど、このタイミングを逃すと、ダイアリーの発売はさらに翌年に持ち越しとなってしまう。個人的にも2007年からトラベラーズノートのダイアリーを使いたかったし、僕とハシモトは、バタバタと仕様を決めて、ハシモトはデザインを入稿した。このときは、パスポートサイズはなかったし、発売をするのはレギュラーサイズの月間ダイアリー1点のみ。それでも、ミドリの他のダイアリーが8月に発売するところ、トラベラーズノートのダイアリーは一ヶ月送らせて、9月に決めた。3月か4月に新商品を発売することになっているので、新商品が無事発売を迎えた後に、翌年のダイアリーの企画を始めるというパターンが定着している。
トラベラーズノートのダイアリー関連アイテムは、毎年テーマを決めて、ハシモトがカスタマイズステッカーや下敷、クリアホルダーのデザインを進める。このテーマは、その時の僕らの興味、世相によって決めている。進行スケジュールは、他社と比べると、圧倒的に遅くてぎりぎりだけど、それゆえによりタイムリーに今の状況を反映させてテーマを決めらるのは、悪いことではないと思っている。
それはそれとして、あらためて、過去のテーマを振り返ると、当時の気分や状況がわかっておもしろい。
たとえば、2018年ダイアリーのテーマは、トラベラーズトレインだった。このダイアリーを作った2017年はちょうど東京駅のトラベラーズファクトリーステーションがオープンした年で、ちょうど電車の旅について深く考えていたときだった。
2019年のテーマは、トラベラーズミュージック。ちょうどその企画を考えていた頃のブログを見返すと、毎年、トラベラーズファクトリーでライブをやってくれている山田稔明さんが作ってくれたトラベラーズノートのことを歌った「notebook song」のCDをコラボレーションでリリースしている。きっとその影響で音楽にフォーカスしたのだと思う。
2020年のテーマは、トラベルツールズ。これははっきりした理由を覚えてはいないのだけど、その前年には新しいプロダクトとしてブラスクリップを作っていたり、tokyobikeとのコラボでトラベラーズバイクを作っているので、その影響なのかな。
2021年のテーマは、トラベラーズブックス。これは完全にコロナの影響で、このテーマを決めた頃は、まさにステイホームが声高に叫ばれていた頃で、旅に出られず家にいなければならないときは、本を読んで想像の旅をしようと、このテーマに決めた。この流れは翌年も続き、2022年は映画をテーマにした。
さらに、2023年にカフェをテーマにしてのは、コロナがだいぶ収まりつつあったけれど、まだ旅を推奨するのは憚れるような空気があったからだった。下のダイアリーガイドに書いた文章の抜粋のように、カフェに行くことより、ノートに向き合いコーヒーを飲む時間、そのものをテーマにしている。
「近所にトラベラーズカフェがあれば、それだけで毎日は平穏で豊かになるし、旅先で見つけたら、その街の住民になったような気分になれます。この場所は、疲れを癒し、怒りや悲しみを鎮め、平和や愛の大切さを思い出させてくれるのです。
トラベラーズカフェはどこにあるかですって?
トラベラーズノートに向かいながらコーヒーを飲めば、そこはもうトラベラーズカフェです」
2024年のテーマは、トラベラーズタウン。これは、コロナ禍が落ち着いて、ちょうどその前年の2023年あたりから、日本の各地に海外から旅行者がやってきた状況から、このテーマを思いついた。この頃からトラベラーズファクトリーも一気に忙しくなって、店内には日本の方だけでなく、アジアや欧米など各国からの旅人でいっぱいになっていて、「ああ、またみんな自由に旅ができるようなったんだな」としみじみ思っていた。そんな姿が、世界中からやってきた旅人と地元の人が入り混じる街、トラベラーズタウンをイメージさせて、このテーマに決めた。
そして、今年2025年のテーマは、LOVE AND TRIP。これは、何度かここに書いたとおり、戦争が続き、罪のない人や子どもたちが殺され、主義主張や国籍が違うだけで罵り合う人たちがたくさんいる状況の中で、愛をもって繋がるようなメッセージを発したかったからだ。
こうやって振り返ってみると、コロナ前は無邪気にそのときに興味があったり、好きなことをテーマにしていた。だけど、コロナ禍がはじまって、世界中で旅をすることが憚られるようになると、旅がテーマである以上、そんな世界の状況を意識せざるを得なくなった。さらにコロナ禍が終わっても、世界には不穏な空気が漂っている。とにかく、自由に旅をして、好きなことを追求していくことこそ、トラベラーズノートが一番大切にしていることであるのは、ずっと変わらない。旅するように生きる、というのは、そういうことだと思っている。
今年9月に発売される予定の2026年ダイアリーのテーマは、さすがに今はもうすでに決まっているけれど、発表まで楽しみにしてお待ちいただけると嬉しいです。みなさんに気に入ってもらえるといいな。