Twelves Record
昨年の11月。アメリカのロサンゼルスでイベントを開催した際、Twelves Recordというレコードショップを訪問した。TRC USAのオフィスがあるロングビーチにあって、常連のように通っているスタッフが連れて行ってくれたのだ。
黄色のペンキでラフに塗られた入り口には、レコードショップらしくDJイベントや新譜のチラシが何枚も貼られている。僕はワクワクしながら店の扉を開けた。しばらく、興奮気味に棚のレコードを一枚ずつめくっていると、学生時代から好きなバンドのシングル盤のレコードを発見。しかも当時流行していた12インチシングルバージョンだった。
A面とB面に1曲ずつ収録される7インチのシングル(EP盤)と、A面とB面あわせて10曲程度収録される12インチのアルバム(LP盤)の2種類のサイズがある。そんな中、1980年代には、通常のアルバムと同じサイズでありながら1曲ずつしか収録されていない12インチシングルというものが登場した。
12インチである理由のひとつは、一曲の長さが、シングルが片面に通常収録できる5分を超えるため。そのため、シングル曲のロングバージョンを12インチでリリースすることも多かった。さらに、通常の12インチのアルバムは、1分あたり33回転の速度で再生するのだけど、12インチシングルは、45回転で再生する。回転数が早い方が音質が良いとされていて、音が良いというのも12インチシングルの特徴と言われていた(正直に言うと、僕の耳ではその違いはよく分からないけれど)。
Twelves Recordの名前の由来は、12インチサイズのレコードから来ていることもあって(だからTwelvesと複数形になっている)、この店に来た記念として、その12インチシングルを購入することにした。ちなみに購入したのは、イギリス、マンチェスターのバンド、ザ・ストーン・ローゼズの「Fools Gold」。12インチにふさわしいファンキーでダンサブルな曲のロングバージョンだ。アメリカで買ったけれど、UK盤だった。
すると、店の奥から、この店の常連でもあるTRC USAスタッフが「こっちに来て」と声をかけてきた。店の奥は、工房のようになっていて、ここで店主がシルク印刷でオリジナルTシャツを製作したり、趣味のスケートボードにペイントを施したりしているとのこと。壁の有孔ボードには、さまざまな工具が掛けられ、テーブルには色とりどりのペンキの跡が付いている。さらにロフトの上はベッドになっていて、「作業に熱中して、ここで寝泊まりすることも多いんだよね」と店主は言った。その奥には簡易なキッチンも設置されているので、ここで暮らすこともできそうだ。僕は、レコードショップの奥にある秘密基地みたいなスペースを見て、こんなところで遊ぶように仕事をして暮らせたら最高だろうな、と思った。
あれから半年ほど経った後に、TRC USAから連絡があった。TRC USAの5周年企画のひとつとして、Twelves Recordとコラボレーションをやりたいから、リフィルを作って欲しいとのこと。リフィルの表紙は、オーナーの友人で、Twelves Recordのアートを手伝っているデザイナーが制作。サイズはパスポートサイズにしたいと言った。僕はコラボレーションによるリフィルの製作を承認することを伝えると、どんなデザインが届くのか、ワクワクしながら待った。
さっそく届いたデザインは、レコードショップらしいポップなイラストが散りばめられたものと、ミルククレート(牛乳を運ぶカートンケースなんだけど、レコードショップでレコードを入れるボックスとしてよく使われている)が並んだモノクロのグラフィックの2種類。どちらか気に入った方でリフィルを作ってほしいと言われたけれど、どちらもステキだったので両方作ることにした。ポップなイラストのデザインの表紙は、オフセット印刷、モノクロのデザインは活版印刷で表現し、TWELVES の文字はゴールドの箔押しで表現することにした。
すでにトラベラーズカンパニーのインスタグラムに、アップされているように、こちらのリフィルは、まずは先週末に開催されたTwelves Record でのDJイベントで先行発売。その後、10月20日よりTRC USAで販売される。
先月末、その情報をTRC USAサイトでアップする際に紹介したいから使用見本を作ってほしいとの依頼がアメリカからあった。さらに、レコードの個人的なレビューを書くような使い方で作ってほしいとのこと。僕は、送られてきた店内の写真を見て、その中からお気に入りのアルバムを2枚選んで、リフィルにジャケットの絵を描いた。
ちなみに左のページに描いたのは、ニュートラル・ミルク・ホテルの「In the Aeroplane Over the Sea」。1990年代にリリースされたカルト的人気の名盤だ。そういえば、僕はこのレコードを2014年の6月に訪れたポートランドの独立系レコードショップで手に入れている。そして、その年の7月にオープンしたトラベラーズファクトリーエアポートのディスプレイに使った。ちょっと分かりづらい場所にあるのだけど、今でもこのレコードは店内で飾られている(だから、実際に針を落として聴いたのは一回しかない)。
右のページに描いたのは、僕が大好きなバンド、ザ・スミスの「Louder Than Bombs」。これはイギリスのバンド、ザ・スミスのアメリカ向けのベスト盤で、有名な曲がこのアルバムにほぼ網羅されている。ちなみに2017年にエースホテルでのイベントのためのロサンゼルスを訪れた際、ザ・スミスのボーカリスト、モリッシーのライブに行った。ザ・スミスは、ひねくれてこじれて孤独だった人へ共感を呼ぶような音楽なんだけど、ライブ会場に集まった満員のオーディエンスを見て、「アメリカにも、思春期にスミスに救われたような人がたくさんいるんだ」と思ったのを覚えている。とにかく意識せずに選んだ2枚が、アメリカへの旅の記憶とも結びついていることに、感慨を覚えた。
こちらのTwelves Record とのコラボレーションリフィルは、アメリカから遅れること約1ヶ月の11月19日より、トラベラーズファクトリー各店でも発売します。音楽好きの方、ぜひ楽しみにお待ちください。