2008年12月 9日

バイコフの森

この本は、ここのパブオーナーより教えてもらいました。前に私が旅の本を紹介したチラシを読んでくれていて、それらを知った上で、旅の本として、この本を紹介してくれました。
 
この本は、第二次大戦前、シベリアとの国境に近い北満州の密林に生活した男の記録です。日本では北海道、アメリカではアラスカなどの北の大地は、男が孤独に旅をする姿が似合います。この本で読むことができるのは、ソローの「森の生活」、星野道夫や野田知佑の本などで描かれているような男がひとり北の荒野を旅する姿です。
   
パソコンやビジネス用語ではなく、ナイフや銃の扱い方を知ることで、自力で生きていく世界。そんな世界に憧れる気持ちは、男だったら誰でもあるはずです。著者、バイコフも厳しい密林で猟をしながら生きていく姿を淡々と描いています。
 
例えば、森の中で野営して夜を過ごすと聞こえてくる虎の鳴き声を壮大な音楽と例えて聞き惚れる話。また、チャオルという鳥は、密林で道に迷い離ればなれになってしまった兄弟が鳥になったから、とても悲しい鳴き声で鳴くという話。著者の視点は自然やそこに暮らす動物に対する深い愛情に満ちています。
 
また、街を追われ森で暮らさなくてはならなくなった貧しい人や、脱獄し森の中に身を潜めている人、さらに孤独を愛するがゆえに森にこもり暮らしている人など、森で暮らす人達との交流は、人間の本質的な生きる意味を考えさせてくれます。
 
森の中では、人間も他の動物と同じように日常的に死があり、銃を手にすることで、やっと他の動物と対等に渡り合えることができる弱い存在なのです。
 
ノートに書いた一節は、人食い虎と対峙し、銃を向けている瞬間です。
 
こういう本が好きな男は、ちょっと信用できるような気がする。