2009年9月14日

トラベラーズノートについて...香港で出会った。


 
先日香港について書きましたが、トラベラーズノートにとっても香港は特別な場所。
 
トラベラーズノートの企画が始まって、そのプランを煮詰めていくなかで、その佇まいから連想させていく世界観を作り込んでいく必要性を強く感じていました。ノートの機能性や品質以外に、それを手に持つだけで自由な気分になったり、表現をしたくなったり、気分が高揚するモノでありたいと考えていました。
 
たまたまトラベラーズノートとは関係のない仕事で香港に行った時、いつものように街をぶらぶらし、お気に入りの場所のひとつである重慶大厦に入りました。前にも書いた通り、ここは安宿が集まったビルで1Fと2Fは、そこに集まってくるインド人向けのレストランや雑貨屋さんがあります。薄暗いビルの中、スパイスの匂いやインド音楽が流れる妖しげな雰囲気が好きで、その時も一人でカレーでも食べようと食堂の席に座りました。
 
カレーを待つ間、ふとまだ試作段階のトラベラーズノートを取り出し、テーブルの上に置きました。すると、トラベラーズノートの佇まいがその空間に溶け込み、深い存在感を放ち始めました。思わず、バッグの中からカメラを取り出し、シャッターを押しました。
 
出張から帰ると、その写真をパソコンで開き、モノクロにしてみました。すると、ロバートフランクの写真集のように、何かを訴えかけるようなメッセージを感じました。それを見て、これだ!と思ったのです。
 
世界中の旅人が集まる香港の重慶大厦。一歩外に出ると、国際都市の中心地の華やかな風景が広がる古いビルの中で、地元の人はあまり足を踏み入れることがない場所。崩れかかった壁やパイプが剥き出しになった天井。きっと出稼ぎで来ているであろう他のテーブルに座るインド人たちの挑発的な強い目線。ぶっきらぼうな感じで出されたインドのパンは、日本のインドレストランで出される発酵させた生地でふんわりと膨らむナンではなく、インドでよく食べた、味気ない薄く平たいチャパティ。
 
写真から醸し出す風景はリアルで、旅の途中の緊張感と開放感を同時に感じさせてくれ、そこに佇むトラベラーズノートは、何かを喚起している。それを眺め、メインコピーを作り上げました。イメージは、ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグのビートジェネレーション。
 
写真にその言葉を当てはめたとき、トラベラーズノートの世界観の生まれ始めました。頭の中には、トム・ウェイツの音楽が流れ、昔、インドの旅から持ち帰った紙くずやメモが入っている箱を取り出し、トラベラーズノートに貼付けていきました。
 
それは、自分の歴史をひも解いて、トラベラーズノートという土台に積み上げていくような行為でした。その時に第一に考えたのは、自分が本当に感動したり、共感したリアルなことだけを抽出すること。そして、そんなことをしながら、今までに経験したことがない楽しさを感じ始めました。チェンマイで生まれたトラベラーズノートが香港でその世界を作るきっかけを得ることが出来たのです。