2010年3月 5日

カッパドキアの話の続き


 
カッパドキアで何日か過ごし、そろそろ別の場所に移動することにしました。滞在中のホテルでは、楽しく話せる日本人旅行者がいたので、寂しさを感じることもなかったのですが、その雰囲気がどこか日本の学生サークルのようで、居続けると旅が陳腐なものになってしまいそうな気がしたのです。もともと1人でいるのは、嫌いではありません。また孤独を味わうのもいいかなと思い、1人で翌日のバスのチケットを買いに行きました。
 
ホテルに戻り食堂で紅茶を飲んでいると、そこでよく一緒に行動していた旅行者仲間の女の子が「実は相談があるんだけど...」と、深刻な顔をして話しかけてきました。

「あの人とても良くしてくれるいい人なんだけど、いきなり結婚してくれって言うんだよ。」どうやらホテルのスタッフの男性から求婚をされたようです。そう言えば、彼はその子には特に優しく、どこに行きたいと言えば、場所を教えるだけでなく、連れて行ってガイドまでしてあげたりしていました。
 
彼女は、それを旅人に対する純粋な優しさだと思っていて、「トルコの人って優しいよね」なんて言ったりしていたので、そんな事態も特別驚くようなことではありませんでした。
 
真面目な彼女は、突然のプロポーズにもきちんと向き合って悩んでいました。イスラム教の国では、厳しい戒律を気にしなくて良い異教徒の外国人女性はもてることが多いので、「そんなに深く考えこまなくてもいいんじゃないかなあ」と軽くアドバイスをしました。「そうだよね...」彼女は納得したような、しないような微妙な表情をして答えました。
 
その日の夜は、翌日みんなと別れるということで、少し遅くまで、ホテルの食堂で話し込みました。その女の子とは結婚相談の件もあり、いつもより深く話をしました。
 
翌日、寝坊をしてしまい、少し遅めの朝食を食べていると、彼女がテーブルにやってきました。「彼に無理って断ったんだけど、どうしてだめなのってしつこいんだ。」同じようなケースで実際に付き合っているトルコ人の男性と日本人女性のカップルを見たこともあるので、彼もなかなか簡単には引き下がりません。
 
「親に会ってくれ、なんとことまで言ってくるから、ちょっと面倒になって他に好きな人がいるって言っちゃった。で、誰なんだって聞かれたから、あなたの名前を出しちゃった。」
 
ふと彼女の向こう側を見ると、そのホテルのスタッフがこちらをじっと見ています。その視線に少したじろぎながらも、そんなことを言われて、今度はこちらがドキドキしてしまいました。その後さらに話をするにつれて、彼女のことを意識するようになっていました。
 
あっとい間に時間は過ぎて、いよいよバスの発車時刻が近付いてきました。後ろ髪を引かれながら、ホテルを出てバスに乗りました。
 
出発の直前、彼女の次の行き先を確認し、まるで偶然を装いながら、「自分もそこに行くつもりだったんだ」なんとこを言って別れました。旅先で、一度会った人と他の場所でまた会うというのは、よくあることなのですが、その彼女とは二度とあうことはありませんでした。