ブランコ
通勤の途中に公園があります。そこは、遊具はブランコと滑り台しかなく、他にはベンチがぽつんとひとつだけある、住宅街の一角によくあるような小さな公園です。
その公園の前を通ると、朝にもかかわらず、中学生らしき女の子がひとりブランコにのっているのをよく見かけました。しかものんびり座り揺られているという感じではなく、力強くかなり高くまでこいでいます。
きっと学校ははじまっている時間。どうして、朝のこの時間にひとりブランコにのっているのだとうかと考えると、ブランコにのりたいからというよりも、何かを忘れるか、何かから逃れるためだということを想像し、少し切ない気分になりました。
そんなある日、いつもの朝の通勤の途中、公園の前を通ると、女の子のそばに2人の警察官が立ち、大きな声で詰問しているのを見かけました。警官の問いかけに対し、最初は無言で下を向いていた女の子は、しばらくすると、大きな叫び声をあげて泣き出しました。そして、警官を振り払い逃げ出そうとしました。警官は、女の子の腕をつかみ、さらにきつい声でどうして逃げようとするんだと、問い詰めていました。
たしかに、中学生の女の子が朝の8時過ぎ、公園のブランコに一心不乱でのっている光景は、ちょっと普通ではなく、警官がそれについて理由を訪ねるのも素直な正義感や世話心からくるものだと思います。
ただ、授業を少しだけさぼって公園で無邪気にブランコに乗ることで、一人の不安定な女の子の少しだけ気持ちを落ち着けることができるのであれば、そっとしておくことも大事なのかもしれないと思いました。もちろん、どちらが本人にとって良い事なのか他人には想像でしか分かりませんが。それ以来、その公園で女の子がブランコにのっているのを見ることはなくなりました。
ちなみに私は、酔ってしまうのでブランコには小さい頃からのることができません。