ハワイと甲子園の思い出
社会人になって初めての仕事は営業職でした。担当エリアは、秋田と岩手。新人の頃は、道も仕事もよく分からない中不安な気持ちでひとり出張に行きました。
秋田に出張で行くときによく泊まっていたのは、ホテルハワイというビジネスホテル。秋田という土地からかけ離れた名前ですが、ハワイを感じさせるのはフロントにかけられた白い砂浜の写真だけで、少し安いのが特徴のいたって普通のホテルでした。
仙台から車で得意先をまわりながら秋田へ向かい、一日の仕事を終えて、ホテルにチェックイン。狭い部屋に入るとネクタイを取り外し、食事をするために外へ出ます。
よく行ったのは、ホテルの近くにある焼肉甲子園という、これも秋田から程遠い名前のお店。ここは一風変わったお店で、壁一面に筆でいろいろな言葉が書かれた半紙が何枚も貼り付けられています。お店のメニューや「今日も一日お疲れ様です」みたいな言葉が書かれているのは、まだ分かるのですが、「吉幾三 雪国 祝有線一位」、「若人よ甲子園を目指せ」などスキンヘッドで強面の店主が思い付きで書いたと思われる言葉に、
壁一面が埋め尽くされています。
でも、そんな怪しげな雰囲気は嫌いではなく、仕事での出張を旅気分にさせてくれました。そこで食べるのは、800円のホルモン定食。どこの部位なのかよく分からない雑多な肉が風変わりな味で煮詰めてあって、一度も美味しいとは思ったことはないのですが、なぜかまた食べたくなってしまう不思議な食べ物でした。
食事中に、夕方の電話で話した上司からの言葉を思い出し、少し憂鬱になります。今日の受注金額は計算するまでもなく、目標から程遠いのが分かっていました。まだ自分なりの仕事のやり方を見つけることができず、うまく仕事をこなせないことに自信を失っていく日々。
食後、薄暗いホテルの部屋に戻り注文書を計算すると、もう一度憂鬱な気分になりました。ベッドにごろんと横になり、島が連なっているように浮き出た天井のシミを見つめ、まだ見ぬハワイに思いを馳せてみました。
これから大好きな季節が始まろうとしているのに、気分は全然晴れやかにならない。そんな18年前の初夏でした。
きっと、今そんな気分で過ごしている新社会人も多いのでしょうね。自分流のスタイルを見つけることができればきっとうまくいきます。がんばってください!