2010年11月15日

父と息子の物語


 
チャールズ・ブコウスキーの小説が好き。そのほとんどは、主人公が酒やギャンブル好きでまともな仕事ができず破滅的な生活をしていく姿を描いた自伝的な小説です。
 
彼の小説のすごいところは、自分の心の奥底を包み隠さず、いやらしさもコンプレックスも卑屈さもすべてさらけ出してしまう正直さとそれゆえに、見える人に対する優しさ。そして、だらしなくて気分屋、怠け者のアル中なんだけど、そんな中で自らの視点を見失うことなく、50代で世に出る前の長い不遇の時に書くことをやめなかった、強い意志。
 
大阪のスタンダードブックストアに行ったとき、私の好きなチャールズ・ブコウスキーの本に並んで置いてあった2冊の本が気になって手にとってみました。
 
1冊は、ジョン・フォンテの「塵に訊け!」。作家になるために、LAにやってきた主人公が裏町のさびれた安ホテルに暮らし、社会の片隅に住む人達との屈折した交流をしながら、不安と憤りの生活を送る姿を描いた小説。この作品は、1939年に発表されたが、そのまま注目をされることなく忘れ去られていました。それをブコウスキーが好きな作品にあげたことで1980年に再出版されました。
 
そしてもう1冊は、ダン・フォンテの「天使はポケットに何も持っていない」。こちらの作者ダンは、ジョン・フォンテの息子で、ブコウスキーのフォロワー的な存在として認められています。この小説もまた自堕落なメチャクチャな主人公が生活を捨てて無計画なまま旅に出る。欲望におもむくまま酒と女に手を出し、自虐的で破滅的な行動を続けて行く。自伝的な小説で、古本屋でひっそりと並んでいる父親の小説を手に取る姿が描かれています。また、作者が様々な職を転々とし、この小説でデビューを飾ったのは50歳を過ぎてからのこと。
 
この父親と息子のどちらの小説も、主人公はろくでなしで、無防備なままさまざまなものに攻撃をしかけ、そしてぼろぼろにされてしまう、そんな救いのない話が続きます。しかし、どちらも最後にはささやかな希望を感じることができるのです。希望を与えてくれるのは、人に対する不器用だけど深い愛情、そして、夢をあきらめない強い意志。辛い事も悲しい事もたくさんあるけど、でもやっぱり人生って捨てたもんじゃないって思える、そんな小説です。