みすぼらしくて美しいもの
香港の裏通りを歩いていて、つげ義春氏の漫画「近所の景色」に引用されている梶井基次郎氏の「檸檬」の一節を思い出しました。
「何故だかその頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。」
つげ義春氏の漫画は、まさにその"みすぼらしく美しい風景"を切り取った作品が多く、活気に満ちた華やかな表通りよりも、裏通りの古い長屋が並び、その脇には薄汚れた洗濯物が物干し竿にかかっているような場所を散策するシーンがよく見られます。さらに、そこで出会う人々とのリアルな生活感漂う切ないやりとりが胸に響くのです。
新しい物と古い物、高い物と安い物など、それぞれが小さなスペースのなかで渾然一体となって入り交じっているのが香港の魅力ですが、私は、表通りよりも裏通り、ラグジュアリーブランドが集まるショッピングモールよりも夜店の屋台、高級レストランよりもローカルの軽食屋・茶餐庁の方が好き。
特に路地裏の古くからある少し朽ち果てたビルが建ち並ぶ風景に惹かれます。そこを歩いていると、どこか儚くも温かい居心地の良さを感じるのはきっと、そこに長年暮らして来た人々の歴史を感じることができるからなのかもしれません。