2011年8月18日

Letter from Morioka


 
お元気ですか。ぼくは今盛岡を旅しています。盛岡のカフェでひとりコーヒーを飲みながら、送るあてもないこの手紙を書いています。
 
盛岡は、会社に入ってすぐに営業担当になった場所で、その頃は月に1、2回通っていました。もう20年近く前のことです。当時は新人らしくよく失敗をして、お客さんに怒られたのを思い出します。そんな苦い経験がありながらも盛岡という場所もそこに暮らす人も好きでした。
 
B級グルメがブームになるずっと前から、盛岡冷麺やじゃじゃ麺などの気軽に食べられる珍しい名物料理があったり、周囲には小岩井農場や花巻温泉、八幡平もあって、仕事だけでなく休日にもバイクで遊びに行ったりしていました。盛岡は小さな都市でありながら、どこか品があって自分たちの街や文化に誇りを持っていた人が多かったような気がします。
 
盛岡駅から15分ほど歩いたところに光原社という世界の民芸品を集めたお店があり、そこでシャツを買ったり珈琲を飲んだりするのが好きでした。光原社は、宮沢賢治の短編集「注文の多い料理店」を出版をした会社で、その後転業し、民芸品のお店になったそうです。各地で受け継がれてきた民芸の技を残して広めていこうという強い志が感じられ、自分にとっては盛岡のイメージを象徴するような場所でした。光原社で買った「雨ニモ負ケズ」のフレーズが刷られた手ぬぐいを自分の部屋の壁に飾っていたのを思い出します。
 
この旅では、本をゆっくり読もうと思っています。前に片岡義男氏が本を読むために京都を旅する様子が書かれていたのを読んで、それに憧れて真似をしてみようと思ったわけです。盛岡にちなんで宮沢賢治の「風の又三郎」を持ってきました。ずっと昔に読んで内容はすっかり忘れてしまっていたし、忙しい合間よりも、のんびりした気分で読んでみたいと思っていた本です。
 
駅前の盛楼閣の冷麺でお腹を満たしたあとは、本を読むためにカフェめぐりをしています。それにしても盛岡には、本を読んだり手紙を書いたりするのにうってつけのカフェがたくさんあります。
 
今この手紙を書いているのは、cartaというカフェです。cartaという店名は、ポルトガル語の手紙からきているそうで、それを知って、さっきまで読んでいた本を閉じて手紙を書いてみようと思った次第です。
 
光原社の美しい中庭にあるカフェ、可否館は相変わらず素晴らしかったです。黒ずんだレンガと木の壁、その壁にかかる古時計やステンドグラスなどのアンティークの調度品。どこか懐かしくも秘密めいて、まるで宮沢賢治の童話に出てきそうな雰囲気でした。
 
中津川添いにあるふかくさは、本を読むのにぴったり。お店の前は遊歩道を挟んですぐ川が流れています。外に置かれたテーブルに席を取れば木漏れ日のもと川を眺めながらコーヒーを飲めるのです。気持ちよく本を読んでいたらうつらうつらと眠気に襲われましたが、あえてそれに抵抗せずに眠りに身を任せてしまうのも、ひとり旅の気軽さゆえの楽しみです。
 
六分儀も、素敵なカフェでした。小さなビルの1F、昔の映画に出てきそうな懐かしいドアを開けると、レコードプレイヤーが奏でるシャンソンが聴こえてきます。ヘリンボーンに組まれたフローリングの床、コーヒーの色がうつったかのように薄く飴色がかった白壁、壁にかかる不思議な抽象画、そして、香ばしいコーヒーの匂い。シンプルで隙がない美しい空間は、長い歴史と深い愛によって出来上がったのだと想像できます。
 
夕方、Holzという家具屋さんに寄ってみました。家具以外にも鉄などの金属を使った面白い雑貨もあって、お店の方とお話をしながら、つい長居をしてしまいました。光原社と同じような志が、新しいスタイルとともに受け継がれて、盛岡という街をもっと楽しくしてくれているようです。
 
今日は、昔の常宿だったホテルが思いがけず安くとれたので、そこに泊まります。味気ないビジネスホテルなのですが、懐かしくてそこに決めてしまいました。夜は、新人時代に上司によく連れて行ってもらった寿司屋さんを覗いてみようかと思います。
 
取り止めもなく、だらだらと書いてしまいましたがやっぱり盛岡は良い街です。まだまだ面白い場所もありそうですし、寒い季節には、また違った顔を見せてくれます。今度は冬に来て、澄んだ空の向こう側に現れる岩手山を見てみたいです。
 
それでは、またどこかの旅の空から便りを送ります。
8月13日 盛岡、cartaにて。
 

carta
 

光原社・可否館
 

ふかくさ
 

六分儀