ALL FOR ONE
5月10日、イギリス、マンチェスターの街頭に謎のレモンの広告が出現。そこにはいっさいの文字情報がなく、ただ輪切りレモンの断面を映した写真があるのみ。その後、ロンドンやグラスゴーなどイギリス各都市のストリートやレコードショップに、レモンの電子広告やポスターが現れ、さらにニューヨークのタイムズスクエアーや渋谷のタワーレコードにも広がっていく。これは英国王立レモン協会の広告などではなく、もちろんトラベラーズファクトリーで『檸檬』のブラスクリップが発売されたという告知でもない。
輪切りレモンといえば、マンチェスターのバンド、ストーン・ローゼズが、ファーストアルバムのジャケットに使っているアイコンのようなもの。ついに22年ぶりの彼らの新曲が発表されるのではないかと、ネット上で噂が飛び回る。そして、5月12日、その公式ツイッターにて、今夜8時にニューシングルをリリースすると発表。地元のラジオ曲で7時に流した後、8時に新曲がネットにアップ。ちなみにイギリスの夜8時は、日本では明け方4時だったので、僕は朝起きるのと同時に曲を聴いた。
ストーン・ローゼズを最初に聴いたのは、もう27年も前の大学生の時だった。お互い持っているCDをカセットテープに録音して交換していた友だちが、これいいよと、リリースされたばかりのファーストアルバムを録音したテープを渡してくれた。
最初聴いた時は、ボーカルにパンチがないし、音もモヤモヤしていて、その頃よく聴いていたバーズの亜流コピーのような感じだと思った。だけど、何度も聴くうちに、自然に体を揺さぶるリズムと、高揚感とともに疾走するメロディーにすっかりはまっていき、自分にとって最も大切なバンドのひとつになった。その後、シングルを何枚かリリースした後は、レコード会社とのトラブルがあったりして、セカンドアルバムがリリースされるまで5年もかかってしまう。すでに大学を卒業し、仕事をしていた僕は、その予告シングルを発売日に買って、わくわくしながら聴いたのを覚えている。
セカンドアルバムはファーストとは打って変わりハードなギターをフィーチャーした曲が多く、最初は違和感を持ちながらも、何度も聴いていくうちに、これもいいなと思うようになった。その頃、来日公演があったのだけど、なんとか手に入れることができたのは名古屋公演だった。だけど、メンバーの怪我により延期なってしまいその後決まった公演日は、仕事の出張と重なって結局行くことができなかった。そのライブの直後に、バンドはあっけなく解散。そのときはけっこう落ち込んだなあ。
そして2011年に再結成のニュース。再結成から初ライブまでの模様をまとめたドキュメンタリー映画を観た時は、思わず目頭が熱くなった。だけど再結成からすでに5年。もう新しい曲は作れないのかと思っていた矢先に飛び込んできたのが、今回の新曲だ。
新曲「ALL FOR ONE」は、やっぱり最初に聴いた時よりも、何度も聴くうちにジワジワと染み込んでくる。
ポジティブで肯定的、自信に溢れているのがローゼズらしくていい。解散した後、かつてのメンバー4人が集まり再びバンドをやっていこうとする彼らにとって、決意表明のようなタイトルだし、そのフレーズを繰り返す歌声を聴くだけで、もう僕は胸が熱くなってくる。実は、このニュースが入ってくる直前、すでにチケットを購入していた6月の来日公演がまたしてもメンバーの怪我でキャンセルとの知らせがあって、がっかりしていたけど、新曲を聴くことができて、ますますそのライブを体感したくなってきた。
それにしても、今回の謎めいたレモンポスターの広告手法によるリリースまでの緊張感と高揚感。そして、再び何かがはじまりそうな予感に満ちたすばらしい新曲。そのすべてがローゼズらしくてかっこよく、僕は20年前と同じようにワクワクさせられた。やっぱりロックは、いまでも僕らに大切なことを教えてくれる。
https://www.youtube.com/embed/R0XZ9qjMil8