2016年11月21日

仕事や表現と生きること

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僕の好きなミュージシャンのひとり、レナード・コーエンが今月、82歳で亡くなった。死の直前にはニューアルバムをリリースしていて、「死ぬ準備はできている」なんて潔く語っていた直後の死だった。そういえば、デヴィッド・ボウイもすばらしいアルバムをリリースした直後の死だった。
 
テレビで宮崎駿氏のドキュメンタリーをやっていたんだけど、70代になり体力の衰えに引退を決意していた彼が、「途中で死んでも、何もしないで死ぬより、やっている最中に死んだほうがましだよね」と再び作品作りをはじめる姿は、かっこよくてとても勇気付けられるものだった。トラベラーズノートユーザーでもある脚本家の倉本聰さんは、81歳を迎え、今年の1月に最後の演劇演出と言って『屋根』を公演したけど、また同じことを言って、来年『走る』を公演するとのこと。
 
きっと嘘を言う気なんてさらさらなくて、ほんとうにそんな気持ちでやっているのが現実なんだと思う。最後だからと今年の公演を見に行ったんだけど、今それが嘘になったことを僕らは素直に喜んでいる。
 
彼らにとって、仕事や表現は生きることと同義で、そんな彼らが文字通り命をかけて作る作品は、美しく感動的だ。歳をとるにつれて、発想力や創造性が鈍ってくるなんてことを言う人もいるけど、彼らを見ていればそんなことはまったく根拠がないことが分かるし、長年の経験に基づく生き様が刻まれていく美しさは、むしろ歳をとらないと表現ができないもの。もちろん、若さゆえの瑞々しさや無知ゆえの自由が生み出す素晴らしい作品もあるし、要はどちらにもそれぞれの違った良さがあるということ。
 
これから高齢化社会を迎えて、労働人口が減るとか年金の受給が遅れるとか、考えなければいけない問題がいろいろあるけど、例えば、ある程度歳をとった人が、ものづくりや料理、サービスなど得意のなことを小さなビジネスとしてはじめやすい世の中になっていくといいなと思う。
 
ジャズ好きのおじさんのレコード屋さん、とても手をかけて作られたジャム屋さん、かつて海外で働いていた人による英会話教室、子供が家を出て余った部屋を利用したミニ旅館、それらは、ちょっと不便な場所にあって、例えば週に3日くらいしかあいていなかったりする。だけど、好きゆえに効率性を無視した手間がかかっていて、好みが合えば他にない良さがあるし、同じものが好きな人同士だから、店主とお客さんの気持ちが通じ合いやすい。そんなローリスク・ローリターンでハイスピリットのスモール・ビジネス。
 
長期的な成長戦略なんて考える必要はない。自分が得意で好きなことを、自らの表現として誇りを持ち、できることを最大限に丁寧にやり遂げる。目先の効率よりも、受け手の喜ぶ顔を本気で想像する。そんなお店が、地方のシャッター商店街や下町の長屋なんかに、ぽつぽつある。廃校になった小学校に集めて、大資本のそれとはまったく違うショッピングモールを作っても面白そう。そこに、誇りに満ちたかっこいいおじさん、おばさん、おじいちゃん、おばあちゃんがたくさんいれば、若い人たちにもいい刺激を与えられると思う。
 
自分の仕事に誇りと愛があり、仕事を生きがいとしている人は、なぜかちょっと変わっている人が多いけど、話をしていても楽しいし、かっこいい。僕らと一緒に仕事をする仲間にもそんな人たちはたくさんいて、彼らを仕事をすると、僕らも刺激を受けるし、なにより楽しい。レナード・コーエンを聴きながら、そんなことを考えていた。それにしても、かっこいい80代だな。こんな風に歳をとりたいな。
 
話変わって、ただいまトラベラーズファクトリーではチェット・ベイカーの映画『ブルーに生まれついて』公開を記念した展示を行っています。LETTER8さんの看板文字やReclaimed Worksさんのフレームで、チェット・ベイカーらしい、かっこいい展示になっています。チェット・ベイカーもまた命を削って、あの儚くて哀愁がただよう美しい音楽を作り出してきたミュージシャン。映画では、イーサン・ホークが素晴らしい演技でチェットに漂うブルーを表現しています。映画は、11月26日より、Bunkamura ル・シネマ等で公開します。ぜひ。
 
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