2016年12月26日

路上の旅

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サンフランシスコを出る頃に降っていた雨は、ハイウェイを南に走るにつれて雨足を弱め、サンノゼを過ぎると、晴れ間が見えてきた。朝食をとらずに急いでホテルを出たため、空腹を感じてきた。ここまで走って、日本の高速道路には頻繁に設置されているサービスエリアのような休憩施設を一度も見なかったため、適当な出口でハイウェイを降りてみる。
 
すると、映画で見るような、典型的なアメリカのダイナーがすぐに目についた。早速車を止めて中に入った。映画だと、よそ者が入ってきたな、という感じで店内から冷たい視線を浴びるんだけど、だれも僕らのことを気にとめる様子もない。
 
ほっとしながら、これも映画や写真集でよく見る直角のボックスシートに座り、メニューを開いた。僕の中で勝手にパンケーキと並んで、ダイナーの定番メニューのひとつだと思っているフレンチトーストとコーヒーをオーダーした。店内は、きっと普段はそっけないほど飾り気がないのだろうけど、今はクリスマスシーズンということで、安っぽいツリーと窓に簡単な飾り付けがされていた。だけど、そのチープさが逆に、手作りの温かさを感じさせてくれた。
 
しばらくすると、南ヨーロッパあたりにルーツを持ってそうなガタイのいいマスターが、コーヒーを持ってきてくれた。真ん中がくびれているどっしりとしたマグに入り、味は薄くてさっぱりの正しいアメリカンコーヒーだ。続いて、厚めの白い皿にざっくりと盛り付けられたフレンチトーストも出てきた。キツネ色の焦げ目が付いたフレンチトーストに、フライドエッグとソーセージが2本添えられて、ピッチャーには、たっぷりのメイプルシロップ。
 
さしずめ日本で言えば、白いご飯にお味噌汁、塩鮭に焼き海苔、そして、生卵が小鉢に入った朝定食といったところだろうか。これぞアメリカン・ブレックファストって感じで僕は思わず笑顔になった。早速、メイプルシロップをたっぷり注いで食べた。旅先では、朝食がおいしい。特に、地元の人たちが日常的に利用するカフェや食堂で彼らに紛れ込んで食べるのがいい。ニューヨークでは、小さなデリで食べたベーグルのサンドイッチが美味しかった。
 
お腹を満たすと、再び車に戻り、ハイウェイを南に向かって走った。途中何度かハイウェイを降りて、風景を楽しんだり、コーヒーや食事をとりながら、101号線をひたすら南へ下った。アクセルを踏むことで、メーターの走行距離が増えていき、今いる場所からどこかに向かって、確実に進んでいく。まっすぐ続く道を進みながら、やはり旅の醍醐味は移動にあることをあらためて実感した。
ロサンゼルスが近付くにつれて、陽が沈んできた。道路灯がほとんどないため、真っ暗の道を進まなければならなかった。
 
ガソリン切れのサインが光るなか走り続け、やっと見つけたガソリンスタンドは、エドワード・ホッパーの絵のように、ぼんやりと孤独を感じさせる光を放っていた。ガソリンを入れ、うんざりするようなトイレで用を済ますと、再び車を走らせた。ロサンゼルスに着く頃には、走行距離は640キロになっていた。640キロと言えば、東京から徳島までの距離とそう変わらない。
 
ロサンゼルスでは、トラベラーズノートを扱ってくれているお店のバイヤーが、僕らの到着を待っていてくれた。早速、僕らをグラフティアーティストのアトリエに連れていってくれた。工場街にある倉庫を改造したアトリエに入ると、600キロの長い旅の疲れも忘れ、あたらしい出会いに胸をときめかせていた。移動して、誰かに出会い、そしてまた移動する。あたらしい出会いは、さらにあたらしい旅へと誘い、旅は永遠に終わることがなく続いていく。トラベラーズノートを手にしてから10年、僕らの旅は、そんな風に広がってきた。
 
さて、トラベラーズノート10周年を迎えた今年は、4月の台湾からはじまり、香港、上海、そしてニューヨークでトラベラーズカンパニーキャラバンの旅をすることができたし、さらに、チェンマイ、北京、アメリカ西海岸へと旅をした。なんだか夢のような1年だったけど、皆様にとっても、素敵な旅をすることができた1年であれば嬉しいです。
 
あと1週間でまた2017年という、あたらしい旅がはじまります。まだ何も書かれていない2017年ダイアリーをセットをしながら、今年の旅に想いを馳せ、新しい旅のことを想像する。忙しい季節に毎年繰り返すこの習慣は、けっこう好きな時間でもあります。それでは、皆様よいお年を、そしてよい旅を。

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