2018年1月 9日

コーヒーを飲むための理想的な場所

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父親は魚屋だったので、魚を仕入れるために毎日朝早く家を出て、築地の市場へ通っていた。小学生の頃、父親に付いて築地に行ったことがある。
 
まだ空が暗いうちに家を出て、車で築地に向かう。フォークリフトやターレットが忙しそうに動き回るのを避けながら進んで、市場に入ると、朝なのに活気に満ちた世界が広がっていた。魚や台を洗うためにホースで水が大胆に撒かれて水浸しの地面を、長靴を履いて歩いていく。まぐろにサンマやアジ、エビにイカ、貝におでん種など、それぞれ違う仲卸のお店を足早に訪れて次々と注文をし、腹巻の中に入った黒革の財布から現金を出して支払っていく。
 
最初はたくさんの魚が並んでいる市場の雰囲気や買い付けのやりとりを楽しく見ていたけれど、ただ付いているだけでやることもないから、すぐに飽きてしまった。しばらくすると、「よし終わりだ。飯にしよう」と父親が言った。僕はホッとするのと同時に、市場ということで何か特別なものが食べられるのかなとワクワクした。すると、向かったのは小さな喫茶店だった。そして席に座ると、何も注文をしていないのにトーストにゆで卵が付いただけのモーニングセットがでてきた。
 
父親は「さあ、食べろ」とだけ言うと、黙って新聞を開いて読み始めた。築地にいながら魚もない普通の朝食に、僕はちょっとがっかりしながら、ジャムをパンに塗って食べた。周りにはひと仕事終えた大人たちがたくさんいてみんな静かに新聞を読みながら、コーヒーを飲んだりパンを食べたりしている。父親はパンを食べ終わると、美味しそうにコーヒーを飲んだ。僕もミルクと砂糖を入れてかき混ぜて、覚えたてのコーヒーを口に入れた。
 
それが美味しかったのかどうかは、正直に言えば覚えていない。そもそもあの頃はコーヒーの美味しさ自体をわかっていなかった。だけど市場の仕事を終えた男たちの中で一緒にコーヒーを飲むのは、大人になったようで、気分が良かったのを覚えている。きっとあの喫茶店は、築地で働く人たちにとって、コーヒーを飲むための理想的な場所にひとつだったのだろうな。今覚えば、僕がコーヒー好きになった理由にあの体験もあるのかもしれない。今年の10月に築地市場が豊洲に移転するというニュースを眺めながら、まだ届いたばかりのアアルトコーヒーの新鮮な豆で淹れたコーヒーを飲んでいたらそんなことを思い出した。
 
週末、トラベラーズファクトリー中目黒の初オープンにあわせて、新春イベントとして福引ガチャガチャと振る舞いコーヒーを開催。たくさんの方に足を運んでいただいた。
 
いつもより賑やかな店内で、ハンドドリップで淹れたトラベラーズブレンドをみんなに飲んでもらう僕は福引の案内をしたり、コーヒーを出したりしながら、お客さんとのお話をするのを楽しんだ。久しぶりにお会いする方に、初めて会う方、一人で来られた方に、何人かで来られた方、海外から来た方に、近所の方など、皆さん笑顔で優しい日差しが差し込むトラベラーズファクトリーの2階でコーヒーを飲んでいる。そんな光景を眺めながら、築地の喫茶店とはタイプが違うかもしれないけど、僕らにとってのコーヒーを飲むための理想的な場所のひとつになったような気がした。
 
朝の一杯からはじまり、昼食後、仕事の途中の一服に、夜や休日に本や音楽とともに飲む一杯までコーヒーは日常にほっとするひと時を与えてくれる。僕は朝と夜には大抵コーヒーを飲むし、さらに昼間もコーヒーを飲んだりするから、1日3、4杯はコーヒーを飲む。
 
家や職場でもコーヒーを飲むけど、日常的に、美味しいコーヒーを飲むことができるお気に入りの場所を大切にしたいと思っている。トラベラーズファクトリー中目黒の2階が、皆様にとってのそんな場所のひとつになれれば嬉しいなと思います。

1月のトラベラーズファクトリー中目黒は、毎年恒例のコーヒー月間ということで、いつものトラベラーズブレンドに加え、アルヴァーブレンドをお出ししています。さらにアアルトコーヒーさんのハウスブレンドやストレートブレンドなどの豆も販売しています。一段と寒さが厳しくなり、コーヒーがますます美味しい季節です。ぜひ、この機会にお試しください。

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