2018年5月 7日

旅と自転車と

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朝からずっと自転車に乗り続けているせいで、ペダルを漕ぐのがかなりきつくなってきた。後ろから、派手なウェアに身を包んだ完全装備のサイクリストたちが、列を組んで颯爽とやってきて追い越していく。この道は、風光明媚なサイクリングロードとして多くの人に知られている。

僕はジーパンにTシャツという格好で、背中には重いリュックを背負って走っている。きっと彼らから見たら、素人風情の自転車乗りだろうから、追い越されていくのも気にせず、相変わらずのんびりペダルを踏み続けた。だけど、ジーパンに自転車はよくないな。汗がじんわりとにじんでくると、肌に密着し足はさらに重くなった。

道の脇にベンチを見つけると、自転車を止めて、タバコに火をつけた。突き刺すような強い日差しが照りつけるけれど、残念ながら日陰になるようなものはない。ペットボトルにわずかに残っていた水を飲み干した。

僕は今、どこにいてどこへ向かっているんだろうか。グーグルマップを見れば、どこにいるのかはすぐに分かるし、入力済みの目的地に向かって道順も示されている。だけど、ほんとうにそこに行かなくてはならないのだろうか。

「どこに向かうのか知らないのなら、どの道を行っても同じこと」
 
山田稔明さんが歌うインディアンの言葉がふと頭に浮かんだ。立ち上がって自転車に乗ると、グーグルマップが指し示す方角を無視して、横道にそれた。道の両側には、水田が広がっている。この辺りでは、ちょうど田植えのシーズンのようで、半分くらいの田んぼには、苗が植えられ、残りは水が張られている。そういえば、青森にあるかつての取引先の会社では田植え休暇といものがあって驚いたけど、今でもあるのだろうか。水田に太陽の光が反射してキラキラと光っているのを眺めていると、僕の心は少しだけ晴れやかになった。

グーグルマップは、道を外して走っていてもすぐに軌道修正をして進むべき方角を示してくれる。僕はその方角に従い、県道から名もない農道に進んだ。誰もいない穴ぼこだらけの道を走りながら、サイクリングロードを走っている時にはなかった不思議な高揚感に包まれた。廃屋のような納屋、不思議な形をした水門、豪奢な古民家などを発見する度に自転車を止めて、眺めながら、ゆっくり進んだ。コンビニではなく、今ではちょっと珍しい萬屋を見つけると、冷たいジュースを飲んで休憩した。

自転車とかバイクは、最も便利で快適な旅の手段とは言えないけど、存分に旅を感じさせてくれる。その姿が、かつての遊牧民や開拓者たちによる馬やラクダでの旅を思い起こさせるてくれるのか、一人で孤独を味わう乗り物であるからか、旅のロマンを思い出させ、旅の醍醐味であるここではないどこかへ移動する気分を掻き立ててくれる。自転車やバイクでの旅は、ただ移動することが旅の目的になり得る。

「どこに向かうのか知らないのなら、どの道を行っても同じこと」

このインディアンの言葉は、だからこそ目的地を知ることが大事だともとれるけど、僕はあえて、こう続くような意味と受け取りたいと思った。

「だから目的地はなくてもいいから、悩んでいないで、とにかく旅に出よう」
 
夜、グーグルマップに目的地として登録していた小さなビジネスホテルに着いた。みうらじゅんが、飛行機のビジネスクラスは嬉しいのに、ビジネスホテルはちっとも嬉しくないなんて言っていたけど、辿り着いたホテルは、ゴールデンウィークなのに唯一前日に予約できた安いだけが取り柄のホテルで、ビジネスホテルというより、LCCのエコノミーホテルと言う方がしっくりきた。だけど、そんなホテルの無機質で味気ない部屋で一人で本を読んだり、ノートに何かを書いたりしながら、ゆっくり過ごすのは嫌いではない。

ギターのギブソンが経営破綻したみたいだけど、ロック好きにとっては憧れのブランドだし、なんとか再建してほしいな、なんてことを考えながらトラベラーズノート に描いていたら、すっかり夜も深まってしまった。さて、明日はどうやって帰ろうかな。
 
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