コーヒーと日本酒
「今度のイベントは、にほん酒やさんと一緒にやりましょう」
アアルトコーヒーの庄野さんからそんな話をいただいた時、正直どんな感じになるのかうまくイメージできなかった。
お酒に強くない僕は、日本酒を飲むとすぐにレッドゾーンを超えてしまうからたまに飲む機会があっても、まさに舐める程度で止めるのを常としている。だから、その楽しみ方は分からないけど、それでもコーヒーと日本酒を一緒に楽しむということが、あまり普通ではないことは分かる。「お客さんは来てくれるのかな」と漠然とした不安を抱えながら、イベントの日を迎えた。
吉祥寺のにほん酒やの店主の高谷さんは今回イベントのために、出雲の小さな酒蔵のお酒、十旭日のお冷用とお燗用の2種類、そして、美味しいおでんをご用意してくれた。
オープンして間も無く、最初に2階に足を運んでくれた近所に住むお客様は、「急用が入って、ゆっくり食べられないから持ち帰りでお願いします」とおでんをオーダーしてくれた。高谷さんがおでんを温めてタッパに入れる間、「やっぱりせっかくだからお燗で一杯お願い」と日本酒もオーダーし、くいっと飲み干してしまうと「おいしい」とひとこと言って、歩いて帰っていった。
「粋だなあ」日本酒を飲めない僕には、その一連の行動がかっこよく見えて、そんな風にお酒を飲めるのをとても羨ましく思った。
次に来てくれたお客様は、「まずはお冷とおでんね、それにこのカレーパンも食べたかったんだよね」とおでんとカレーパンをつまみながらお酒を飲み、続いてお燗でゆっくりと味わった後、最後にトラベラーズブレンドを飲んで、とても満足された様子で帰っていった。その後、にほん酒やさんの常連の方に、アアルトコーヒーのファンの方、そして、トラベラーズノートを使ってくれている方々が次々と足を運んでくれて、夕方までたくさんの賑わった。
この日は、天気もよくてトラベラーズファクトリーの2階は、窓から太陽の光が明るく差し込んできてぽかぽかした陽気に包まれていた。そんな中でみんな穏やかな表情でお酒を飲んだり、コーヒーを飲んだりする。例えば、休日の昼下がりに、気心の知れた仲間が誰かの家に集まって行われるパーティーのような終始とても和やかでリラックスした、温かなイベントになった。
庄野さんも、コーヒーを淹れる合間にお酒を口にしているし、トラベラーズチームのお酒好きイシイはイベント終盤に痛風だから一杯だけと言いながらやっぱり飲んでいた。にほん酒やの高谷さんも、お燗を作るたびに、その味を確認するために一口飲んでいた。
でも、そのたびにほんとうに美味しそうな顔をするから、飲みたくてつい口してしまうようにしか見えなかった。そんなみんなの姿もまったく自然で楽しそうで、お酒が飲めない僕はただただ羨ましく眺めていた。
コーヒーと日本酒。最初に聞いた時には、どんな感じになるのか想像もできなかったけど、素敵な人が集まって美味しいものがあれば、やっぱり幸せな空間が生まれるんだなあ。