2019年10月15日

In an octopus's garden

20191014b.jpg
 
皆さま、台風は大丈夫でしたか?
 
台風が関東に上陸した10月12日、トラベラーズファクトリーは、中目黒、エアポート、ステーションの3店舗すべてお休みをいただきました。エアポートとステーションは年中無休なのですべての店舗が休みとなるのは、2014年にエアポートがオープンして以来はじめてのこと。それだけ特別な事態だったんですよね。

その日、僕が住む場所では川の氾濫が迫り、夕方から夜にかけて何度も携帯電話からの警報が鳴り響いた。その音を聞きながら、そういえばこの辺りは海抜ゼロメートル地帯と呼ばれ、水害に弱いことを昔小学校で習ったのを思い出した。夜になると何度か一瞬電気が止まり、いよいよ停電かと覚悟を決めたりもしたけど、結局、川の決壊も停電もなく、無事台風は過ぎ去っていった。きっとその裏には、たくさんの人たちの日々の努力や工夫に、現場での苦労があったんだろうな。
 
その後、台風による多大な被害が各地であったのをテレビのニュースを見て知った。そこに住む方と自分との違いは、紙一重でしかなかったことを思い、心が痛んだ。被害に遭われた方々が、1日もはやく普通の日常を取り戻すことができるのを祈るのみです。ここ最近、いろいろなことが怒涛のように押し寄せて、ちょっと心がへこたれ気味だったけれど、何よりも普通の日常が送れることに感謝しないといけないですね。どんなことも、生きるか死ぬかという状況と比べれてしまえばたいしたことではないのかもしれないな。
 
9月はじめから、村上春樹の長編小説を読み返している。デビュー作の『風の歌を聴け』から読み始めて、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』という風に出版された順番に読んでいき、今は『1Q84』BOOK3の途中。ぜんぶ既に読んでいるのだけど、本はどれも手元に残っていなかったので、再び買って読んでいる。彼の本はたいていブックオフの100円コーナーにあるから、買うのも苦にならない。それに内容はほとんど忘れてしまっているのではじめて読むような気分で読むことができる。 
 
何より彼の小説は読みやすく、次の展開が気になるので、心に悩みや雑念があっても、すっとその世界に入ることができるのが良い。物語のパターンはだいたい一緒だ。登場人物は孤独を抱え、喪失感に襲われている。そんな自分を冷めた目線で眺めながらも、生きていくための理由や理想をつかもうと、現実世界とメタファーの世界を行き来しながら、旅に出たり冒険をしたりする。その過程で悲しみや困難があっても、登場人物はうろたえることもなく常にクールにすべてを受け入れ対処していく。そして、最後は生きていくための理由や理想が手に入れられたのか分からないまま、それでもささやかな希望を読者に感じさせてくる。
 
もちろん隠されたままのメッセージや、読み取ることができないメタファーもたくさんあるのだろうけど、読んでいると少し救われたような気分になるのだ。
 
僕にとって、トラベラーズノートは、書くための道具であり、現実の仕事でもあるのと同時に、『1Q84』に描かれた月がふたつあり、リトル・ピープルがあらわれるようなメタファーの世界でもある。

使い込んで味が出たトラベラーズノートは、年をとることをポジティブにし、長く寄り添うことで愛着が深まることを比喩的に教えてくれる。カスタマイズされたトラベラーズノートが何冊も積み上げられた姿は、人はそれぞれみんな違って孤独であるけれど、孤独もまた共有できることを示唆してくれる。僕らはトラベラーズノートを作って販売し、利益を得ることを生活の糧としながら、そこから生きていくための理由や理想の世界を探し、何かをつかみとろうとしている。
 
僕らはトラベラーズノートに深く関わりながら『1Q84』の天吾や青豆のように、現実の世界とメタファーの世界を行き来して冒険の旅をしているのかもしれない。いつもうろたえてばかりで、あの二人みたいにクールには対処できていないけどね。人と完全に分かり合うことなんでできないし、現実は時には残酷で、夢は儚く消えてゆく。人生という旅は、村上春樹の小説のみたいに孤独に満ちているし喪失の連続だ。だけどトラベラーズノートもまた、そんな時にささやかな希望を与えられる存在でありたいと心から思っている。
 
そういえば、前に自転車で転んで腰を打ったことをここに書いたけれど、それから何度か「腰は大丈夫ですか?」とか「大変でしたね」と言われ、そんなつもりはなかったけれど同情してもらうために書いたみたいでなんだか申し訳ありません。あれから3週間。腰の痛みもだいぶ治りました。10月になって気温も下がってきたけど、靴下も履けるようになったから寒さに震えることもありません。もう大丈夫。元気です。
 
今月はトラベラーズファクトリーの周年月間です。8周年缶は無事完売になりましたが、10月26日は、アアルトコーヒーとピワンによるトラベラーズブレンドとトラベラーズカレーの夢のコラボレーションカフェを、27日には山田稔明さんのライブも開催します。8周年のノベルティーバッグにスタンプも登場します。

まだまだ旅は続きます。皆さまもぜひお付き合いいただけると嬉しいです。

20191014d.jpg
 
20191014c.jpg
 
20191014e.jpg
 
20191014f.jpg
 
20191014a.jpg