2019年10月23日

成都からの手紙

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拝啓、お元気ですか。
 
僕は今、中国西南部の都市、成都を旅しています。かつて、三国志の劉備玄徳が治めていた蜀の都だった場所です。人口1000万人以上のそれなりの大都市ではありますが、上海に比べると時間の流れがゆっくりで喧騒も少ないような気がします。まだここに来て2日しか経っていないのですが、僕はこの街をけっこう気に入っています。
 
ここは四川料理の本場。なので、ほとんどの料理には唐辛子がたっぷり使われ、その見た目通りやっぱり辛いです。辛さの中に「麻」と呼ばれる山椒の一種、花椒による痺れるような辛味があるのが四川料理の特徴なのですが、これが食べ続けるほどに、だんだんと癖になっていきます。この街に来てから毎食、四川料理なのですが、他の食べ物が恋しくなることもなく過ごしています。 
 
今朝は、ホテル近くの食堂で担々麺をさっと掻きこむように食べると、人民公園という大きな公園にある茶座へ行きました。茶座は、オープンカフェの中国版のような場所で、屋外でお茶が飲むことができます。
 
歴史を感じる庭園の池のほとり、飾り気のない木のテーブルと、それを囲むように竹で組まれた椅子がずらりと並んでいます。あるテーブルでは、本を読みながらひとりでゆっくりお茶を飲む老人が座り、あるテーブルでは、何人かが賑やかに話をし、またあるテーブルでは、言葉を交わすことなく、それでもお互いをいたわり合っているのが分かる老夫婦が静かに向かい合ってお茶を飲んでいます。そんな姿を眺めていると、三国志の時代からずっと変わることなく同じ風景が続いてきたのではないと、想像してしまいます。
 
僕らは池のほとりに席を取り、仕事の打ち合わせをしながら、ひまわりの種をつまみ、お茶を飲みました。少しひんやりする秋の朝の穏やかな空気は、じわじわと僕の心をこの土地に馴染ませていき、旅の時間が日常になっていくような感覚が湧き上がってきました。
 
街を歩いていると、ライトアップされた巨大な高層ビルの隣に、洗濯物が窓の前に並ぶ雑居ビルがあり、さらにその1階には、美味しいエスプレッソコーヒーを飲むことができるおしゃれなカフェがあるのを見つけたりします。そんな風に様々なライススタイルが分け隔てなく渾然一体になっているのも、この街の面白いところです。また、古都らしく三国志の時代からの歴史を感じる街並みや、清の時代から変わらず残る路地を歩くこともできます。
 
この街のお店、カフェのオーナーや、ホテルを運営する方々と話をすることができました。みんな高い志がありながら、気負いや尊大さをまったく感じさせない穏やかな人たちばかりで、いつかこの土地の人たちと何か一緒にできたらいいな、と思っています。
 
そういえば成都は、パンダの研究基地があることでも有名で、僕らも足を運ぶことができました。ここには、100頭以上のパンダがいて、上野動物園でよく見るような眠っているパンダだけでなく、歩くパンダに、木に登るパンダ、食事中のパンダ、じゃれあうパンダなども見ることができました。
 
あらためてパンダをじっくり眺めてみると、その仕草の愛おしさに心が和みます。寝っ転がって竹の子をバリバリと食べたり、足でお腹を掻いたり、もしも人間がやったらだらしないと一喝されそうなことも、パンダがやると、たまらなく愛らしい。その姿に心を奪われつつ、いつも君にだらしない振る舞いを指摘されていた僕は、ちょっとだけパンダに嫉妬をしてしまいました。
 
この街の遊牧民をテーマにしたホテルの部屋で、ふと君のことを思い出し、備え付けのメモ用紙を便箋にしてこの手紙を書きました。下手な字でつらつらと成都のことを書き綴ってしまいましたが、僕は元気にやっています。それでは、また旅先で会えるのを楽しみにしています。さようなら。
 
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