One more story
最近、打ち合わせのお誘いメールが届き始めるようになり、先週は外部の方とお会いして話をする機会が何度かあった。
お誘いいただく際は、リモートでも大丈夫ですが会って話をすることも......、といった感じで、さりげなくこちらの意向を聞いてくれるのだけど、そうするとやはり会ってお話しましょうと返事をしてしまう。
打ち合わせでは、お会いするのも久しぶりだし、そもそも誰かと会って話をするということも今まであまりできなかったこともあって、マスクをつけながらついたくさん話をしてしまう。だいたい話の半分くらいは、本筋とはあまり関係ない話が多いんだけど、リモートだとそういった無駄話になりにくい。だけど僕は無駄話が好きだし、無駄話から面白そうな仕事に転がっていくことも多い。なにより人と会って話をするっていうのはいろいろ刺激をもらうし、やっぱり楽しい。
見えない脅威に怯え、静かに身を潜めるように過ごしていた日々から、多くの人が気をつけながらも再び外の世界に足を踏み出していくことはじめようとしているのを感じる。
トラベラーズファクトリー中目黒は、休業以来はじめて2階のカフェスペースを再開。テーブルの向きを変えたり、椅子を減らして入場制限をしたり、予防対策をした上ではあるけど、通常の営業に戻りつつあるのが嬉しい。6月1日から営業を再開したと言っても、まだお客様は少ないし、以前のような状態に戻るまでにはしばらく厳しい時が続くだろう。感染にも気をつけないといけない。だけど、その分静かで落ち着いた雰囲気の中目黒の店内にいると、不思議と懐かしい気持ちになる。
トラベラーズファクトリーがオープンしたばかりの頃。まだスタッフが揃っていなかったため、週に1日夕方からお店に行って、店頭に立っていた時があった。その頃はまだお客様も少なく、特に平日の夜はほとんど人が来ることもなく、手持ち無沙汰な時間を埋めるように商品の並べる位置を変えたり、手書きのPOPを作ったりしていた。
お客さんは来ないけど、静かな店内でそんなことをしながらBGMに耳を傾けているのは楽しい時間だった。今だから言えるけど、当時は売上が1万円に満たない日すらあって、そんな時は自分でコーヒー豆やまだ読んでいない本を買って、ささやかな売上の足しにしたりしていた。それから少しずつお客様が増え、東京だけでなく、遠方からも来てくれるようになり、さらにここ数年は海外からもお客様が来てくれ、いつも賑わうような場所になっていった。
東京の感染者数はなかなか減らない中で、遠くからお客様がまた来てくれるようになるにはもうしばらく時間がかかりそうだし、海外に至ってはいつ戻ってくることができるのかわからない。
「新型コロナウィルス発生!30コマ戻る...」まるでスゴロクで一気にコマが戻されたようにまたあの頃に戻ったような状態になった。だけど、そんなことすらも楽しめたらいいなと思っている。お客様が少ない分、ひとりひとりの方に丁寧に向かい合い、ゆっくりお話ができるし、2階では静かで落ち着いた雰囲気の中でノートを開きながら、のんびりコーヒーを飲む時間を楽しんでいただくことができる。今だからこそ味わえるトラベラーズファクトリーを楽しんでいただけるよう、できることを精一杯していきたい。
例えるなら、9年間に渡り少しずつ書きためていた長編小説が、パソコンのフリーズに よってすべて消去されてしまい、途方に暮れながら、また最初から書き始めるようなものなのかもしれない。だけど、9年前と違うのは、共に苦労と喜びを分かち合ってきた仲間がいてみんなの頭の中には今まで書きためていた物語の記憶がしっかり残っていることだ。ここで一度リセットして、みんなでまた一から書き始めることで、さらに楽しくワクワクする物語に生まれ変わる予感がする。ステーションもそうだし、エアポートも近い将来新しい物語がはじまるはず。京都が仲間に加わったことで、新しい化学反応が生まれるかもしれない。
そんなわけで、トラベラーズファクトリーの新しい物語を楽しみにしていただけたら嬉しいです。