2020年7月27日

なんだか旅の途中みたいだな

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オリンピックが始まるはずだった4連休の初日。東京都民の僕は旅行をすることも憚れるし(まあコロナがなくてもこのタイミングで旅行に行くことはなかっただろうけど...)、次号のTRAVELER'S TIMESのためのイラストとテキストを書くという宿題があったので、自転車に乗ってオフィスに行くことにした。

途中、雲行きが怪しくなると、突然雨が降りはじめ、オフィスに着く頃にはTシャツとジーパンがびしょ濡れになってしまった。いつも汗で濡れてしまうからTシャツは予備を持ってきている。早速、新しいTシャツに着替えると、濡れたTシャツをハンガーにかけて早く乾くようにクーラーの風量を強にした。ついでに予備はないけど濡れたジーパンも脱いでハンガーにかけた。

「休日だし、誰もいないからいいよね。今は風邪ひいちゃうとまずいしな」心の中で言い訳のようにつぶやきながら、ズボンもはかずに机に向かった。
 
宿題は旅を感じるレコードと映画と本をそれぞれ4つ選んでトラベラーズノートに描くこと。まずは何を描こうかとぼんやり考えていると、突然オフィスに呼び鈴の音が響いた。予想外の事態に慌てて濡れたジーパンをはいて玄関に出ると、郵便局の配達員だった。「休日なのに郵便物は届くんだな」そんなことを思いながら荷物を受け取ると、またジーパンを脱いでハンガーに掛けた。

なんとなくレコード4枚を決めて、ノートに描きはじめる。鉛筆でラフに下書きをしてペンで2枚目のレコードを描いていると、また呼び鈴がなった。再び濡れたジーパンをはき、玄関へ。すると女性が二人で大きなバッグを持って立ち、「XXから来たのですが、皆さんでお菓子はいかがですか? 生クリームがたっぷり入って雑誌にも紹介された美味しいお菓子ですよ」とのこと(XXは別に伏せている訳ではなく単純に聞き取れなかった)。

「今日は私ひとりしかいないから大丈夫です」そう言うと「お忙しいところ申し訳ありません」と言って帰って行った。別に腹が立った訳ではないのだけど、お菓子の売り込みが来るのは初めてだったし、こんな時に来なくてもいいのになあと思った。

気持ちを落ち着かせ、まだ少し濡れていたけどジーパンをはいたまま、あらためてノートを手に取ってみた。すると、ノートの上下を逆さまにして描いていることに気づいた。そのままでも使えない訳ではなないのだけど、なんとなく気分を変えたくなったので、新しいノートの封を開け、一から描き始めた。なんとか4枚のアルバムジャケットとその横にコメントを描き終えようとした頃、また呼び鈴。「まるでドリフのコントだな」そんなことを思いながら玄関に行くと、今度は女性がひとり立っていて、「すみません。3階へ行くにはどうしたらいいでしょうか?」とのこと。

「あそこの階段を上がってください」わざわざ聞かなくても分かるんじゃないかなとちょっとイラッとしたけど、そんな素振りは見せず感じよく答えた(と思う)。

「なかなか落ちつかないな」とりあえず4つある宿題のひとつは終わったし、ジーパンもだいぶ乾いていた。もう今日はこれで終わりにしようと思った。

ノートや筆記具を片付けメールを開いてみると、トラベラーズファクトリーのスタッフから、7月29日発売になるエースホテル京都とのコラボレーションについて質問が届いていた。僕はいつもよりちょっと丁寧に返事を書いた。そして、ふと思いついたようにエースホテルのロンドン、LA、ニューヨークで泊まった時に部屋から持ち帰った便箋を机の下にある箱から引っ張り出して京都の便せんと並べてみた。エースホテル京都の部屋にある便箋やメモは、MD用紙クリームを使用して流山工場で作らせてもらっている。

各ホテルの便箋は、デザインのフォーマットは同じだけど、それぞれ紙質が微妙に違うのが面白かった。ロンドンやLAなどはざっくりしたラフな質感で、京都の便箋は他よりもきちんとしてちょっとまじめそうに見える。それがなんとなく日本らしさみたいなものを感じさせて、エースホテルがMD用紙を選んだ理由が分かったような気がした。エースホテル京都の部屋にはロゴをデザインした柚木沙弥郎さんのアートが飾られていたり、ミナペルホネンのカーテンが付けられていたり、ロビーには、しょうぶ学園の作品やヒステリックグラマーのデザイナーによる電飾があったりする。それらが日本らしさを感じさせながらも、圧倒的にエースホテルとしか言えないような自由で文化的な匂いも強く感じさせてくれる。トラベラーズもそうありたいと思った。

僕は戸締りをしてオフィスを出ると、ずっと前から行こうと思いながら行く機会がなかった中目黒の銭湯に立ち寄ることにした。サウナにもたっぷり入ってさっぱりした気分で外にでると空はすっかり暗くなり、雨上がりの心地よい風が流れていた。

「なんだか旅の途中みたいだな」そんなことを思いながら清々しい気分で、自転車のペダルを踏み込み、夜の東京を走った。
 
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