2020年8月24日

なりたいものは別になかった

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幼い頃の薄い記憶がぼんやりと蘇ってくることがある。たぶんその日は、幼稚園で誕生日会のようなものが行われていたのだと思う。その月に誕生日を迎えた4、5人の園児たちが、みんなの前に並んで立っていて、僕はその中のひとり。先生が「将来何になりたいですか?」という質問を投げかけると、園児はひとりずつ答えていった。

あの頃の僕は、そういったことを聞かれると、いつもパイロットと答えることにしていた。本気でパイロットになりたいと思っていたかと言われると、実はそうでもなかったのだけれど、幼い頃はよくその質問を聞かれたので、その都度悩まなくてもいいように答えを用意していたのだ。スポーツが得意な訳でもなく、目立ちたがり屋でもないし、ましてはそういう時にウケを狙うような機転のきいた子供でもなかった幼い頃の僕にとって、パイロットは無難な答えだった。そんな訳で、その誕生日会でもパイロットと答えるつもりで、深く考えることなく自分の番を待っていた。すると、自分の順番がくる前に他の子がパイロットと答えてしまったのだ。

今思えば、そのまま僕もパイロットと言っても良かったのかもしれないけど、予想外の事態に慌ててしまい、何も思い浮かばない中で必死で考えて口から出た言葉はなぜか「僕は将来お父さんになりたい」だった。もちろん積極的にお父さんになりたいと思っていた訳ではない。ただ、野球選手に歌手、ケーキ屋、おもちゃ屋など頭に次々と浮かんだなりたいもの候補を消去法で探していく中で、唯一なってもいいと思えたのがお父さんだった。
 
僕の答えを聞くと、その場にいた先生や保護者がみんな笑い出した。面白いことを言ったつもりはない僕は、どうしてみんなが笑っているのか分からなかった。だけど、場違いで間違った答えを言ってしまったということは察することができた。幼い頃の記憶は断片的で、その前後のことはぜんぜん覚えていないのだけど、あの時感じた恥ずかしさや哀しさ、後悔が入り混じったどんより沈んだ気持ちは、なぜか今でも鮮明に覚えている。
 
そのことがトラウマになっているのかはよく分からないけれど、僕は大勢の人の前で話をするのが苦手だった。滑舌も良くないし、うまく話をまとめることができず、もやもやした感じで終わってしまうことが多い。大人になって、人の前で話す機会が増えたけど、今でも思いつきで何かを話そうとすると、ぐだぐだになりがちで、満足するような結果になることはほとんどない。
 
話は変わりますが、先週、トラベラーズファクトリー京都の限定アイテムをセットした「KYOTO EDITIONセット」をオンラインショップで発売しました。各店舗の限定アイテムは、実際にその場所を訪れる体験を伴いながら手にしてほしいとの想いがあり、今まではオンラインショップで販売をしたことがなかった。だけど、京都はオープンから二ヶ月経つ中でいまだに旅をすることができない方が多いこともあり、初めての試みとしてまずはやってみようということになった。その場所を訪ねる体験については、店舗をご案内する動画をご覧いただくことで、擬似体験してもらおうと考えた。

こんな時だからこそ、京都限定アイテムを手にしながら動画を見ることで、京都を旅したような気分になってもらえたら嬉しいと思った。そんな訳で、なんとか夏の旅の季節に発売したいと考え、商品の手配からセット組み、サイトのページ作りまでスタッフみんなでバタバタと進め、先週の発売を迎えることができた。僕もお盆休みの直前に橋本と京都へ行き、閉店後の夜と開店前の朝に動画を撮影。京都の店長が店内を案内し、その横で私がコメント差し込み、橋本がデジカメで撮影して編集した。

行き当たりばったりのぶっつけ本番だったけど、店長の滑舌の良いレポーターのような話しっぷりと、橋本のはじめてとは思えない撮影と編集によって、なんとか形にすることができたと思っている。いかにも言い訳がましい前振りの通り、私がぐだぐだなのは小さい頃の哀しいトラウマが原因なので、温かい目で見ていただけると嬉しいです。

こちらの「KYOTO EDITIONセット」ですがすぐに完売となってしまったため、9月2日の11時に再発売の予定です。ぜひ。
 
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