2021年6月28日

Creep

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この前も書いたけど最近、映画のサントラをよく聴いている。音楽を聴くことで、その映画のシーンだけでなく、見た頃の記憶までもがじわじわと蘇ってくるのがサントラの良いところだ。
 
2011年公開の映画だからずいぶん前になるけどfacebook のマーク・ザッカーバーグをモデルに描いた映画「ソーシャルネットワーク」は、映画そのもの以上に、予告編を映画館で見た時にちょっとした衝撃を受けた。
 
予告編では、まずfacebook に投稿されている写真とともに「友達になる」とか「いいね」をクリックするPCの画面が映る。そして画面は切り替わり、主人公が仲間と大学で新しいネットサービスを開発するシーンに。それが多くの人を惹きつけ、どんどん大きくなり、億単位の価値を持つようになる。すると、仲間との争いがあったり、訴訟を起こされたりしながら、だんだん主人公が孤立していく。そんな様子を短いカットを繋ぎながら、わずが2分間の映像で描いていく。

映画館でこの予告編を見ている途中、バックで流れる聖歌隊が歌う曲が、レディオヘッドの「Creep」のカバーであることに気づくと背筋がぞっとするような感覚になる。この曲名のCreepという単語は、本来は忍び寄るという意味なのだけど、主に女性が男性に対して言うスラングで、「気持ちが悪いやつ」というような意味もある。ネットでいろいろ調べてみると、「Eww, you are such a creep! Go away. ああ、お前は超気持ち悪いよ。あっちへ行け!」なんていうキツい例文が見つかった。今風に言えば「キモい」みたいな感じだろうか。ちなみに「クリープを入れないコーヒーなんて...」のクリープは、クリーミング パウダー(Creaming powder)を略した商品名で綴りはCreapになる。
 
「Creep」の歌詞はこんな意味だ。
 
「前に君とここで会ったとき
 君の目をちゃんと見ることができなかった
 だって君は天使みたいで
 君の肌は涙がでるほど透き通っていた

 君はこの美しい世界に漂う羽毛のみたいで
 本当に特別な存在だった
 僕もそうだったらよかったのに
 
 だけど僕は気持ち悪いし、変わり者
 こんなところで何をしているんだろう
 僕はここにいるべきじゃないんだ

 傷ついたって構わないから、
 思い通りにできたらいいのに
 完璧な肉体に、完璧な魂がほしい
 
 近くにいなくても、僕の存在に気づいてほしい
 君は本当に特別な存在なんだ
 僕もそうだったらよかったのに
 
 だけど僕は気持ち悪いし、変わり者
 こんなところで何をしているんだろう
 僕はここにいるべきじゃないんだ

 彼女はまた去っていってしまう
 彼女は走って、遠くに去っていく」
 
簡単に言ってしまうと、自分とは住む世界が違う女の子を好きなってしまった男の悲しいラブソングなんだけど、「But I'm a creep, I'm a weirdo (僕は気持ち悪いし、変わり者) I don't belong here (僕はここにいるべきじゃないんだ)」というサビの歌詞は、この世界に自分の居場所を見つけることができない人間の深い孤独と絶望を感じさせ、ラブソング以上の意味を持つ曲でもある。

「ソーシャルネットワーク」の予告編では、映像とあわせてこの曲がワンコーラス流れる。しかもレディオヘッドのトム・ヨークではなく、ベルギー少女合唱団によって歌われることで、まるでマーク・ザッカーバーグ役の主人公が天使のような少女たちから、お前は気持ち悪い、変わり者なんだよ、と言われているようで、主人公の異質さや孤独感がより際立つのだ。

レディオヘッドのオリジナルバージョンでは、このサビの部分は最も盛り上がるパートでもあり、ライブ映像を見ると、オーディエンスみんなで「僕は気持ち悪いやつだ」と合唱しているのを見ることができる。個人的にはこんなシーンにロックの美しさを感じる。

みんなが楽しんでいることを自分だけ楽しめない、世間の風評や価値観に共感できない、おかしいと思うことに黙っていられない、みんなと同じことができない...。そんな性分ゆえに時には人との軋轢が生まれたり、疎外されたりして、孤独や絶望を感じている人たちがいる。だけど、ロックは孤独や絶望から逃げることなく、自分の好きなことや思いに誠実に向き合うことで生まれる表現だ。同じような性分を持つゆえに生きづらさを感じているオーディエンスは、孤独や絶望を共有することで、それでもいいんだ、という思いを抱くことができる。
 
トラベラーズノートもまた、そんな性分を持つ人にとって心地よい道具でありたいと思っている。自分の好きなことや思いに誠実に向き合い、それを表現する道具だから、孤独や絶望を否定せず、受け入れられるような存在でありたい。トラベラーズノートやトラベラーズファクトリーは、どこか孤高の寂しさのようなものを感じさせ、でも温かくて優しくて、時に僕らを奮い立たせてくれる音楽や映画みたいな存在でありたいな。
 
話変わって、もうすぐ6月も終わりです。週間ダイアリーを使っている人は、後半に差し替えるタイミング。週間ダイアリーはもともと持ち歩きやすいように1年を前半と後半を分けたのですが、後半に差し替えるタイミングで、1年の半分が終わったことを実感し、あらたな気持ちで後半を迎えることができるのも面白いところだと思っています。特に2021年の前半はきっとみんな大変だったから、後半はいろいろなことが好転するといいなと思いながら、差し替える人も多いんだろうな。
 
予告編とレディオヘッドのライブは下記リンクよりご覧いただけます。ぜひ。
 
ソーシャルネットワーク 予告編
 
Radiohead-Creep (Live at NOS Alive Festival 2016)
 
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