片付ける
事務所のすみに積まれたままのダンボールをいい加減片付けるようにとのお達しがあり、ずっと手を付けずに閉じたままだった箱を開けて、中をさらしながらいるもの、いらないものと分けていく作業をしていた。とにかく物量を減らすということが至上命令。悩むくらいなら捨ててしまおうと心を鬼にしながら、作業に没頭した。
打ち合わせのプレゼンシートから、見積もり、仕様書、カタログといった類いは悩まずぜんぶシュレッダーにかけていく。資料の中からトラベラーズファクトリーステーションの設計図面に、京都の企画書を発見。パラパラとめくりながら、しみじみ眺める。
「トラベラーズファクトリー京都は原点に立ち返り、工場をコンセプトに空間を作る。ところどころ錆びていて、油にまみれた機械が並ぶ町工場のような空間。トラベラーズノートを中心に、共感できる作り手とのコラボレーションも展開。人生の旅の相棒となる道具や懐かしく心を躍らせる宝物が並ぶ。店内には、旅の中継ポイントになるようなライブラリースペースを設置。お客様が自由に手に取れる本やレコードが並び、ソファーでゆっくり読んだり、テーブルでノートに何かを書いたり、カスタマイズしたりできる。ものづくりやアート、音楽、コーヒーなどをテーマに不定期でイベントを開催し、旅人と地元の人たち、さまざまな世代や人種が交差する文化発信基地となる気概で運営する・・・」
これらは元データが保存してあるはずなので、やっぱりシュレッダー。
さらにキープしておいた10年以上前のイベントのフライヤーやオリジナル商品、キャンペーンの景品が出てくる。これらはきちんと仕分けをして保存用に。どれも眺めているだけで、トラベラーズノート15年の歴史が走馬灯のように蘇ってきて、ついつい手にしながら当時にことに思いを馳せてしまう。そういえば、今年はトラベラーズファクトリーの10周年でもあるし、これらを使ってなにかできたらいいな、なんてことを想像してなかなか進まない。しわくしゃになっていたTシャツとてぬぐいは、自分のバッグに忍ばせる。
悩ましいのが、数々の試作サンプル。商品化に至るまでの途中のサンプルに、不運にも日の目を浴びることがなかったボツネタの数々。だけど、B-Sidesみたいにボツネタにも再浮上のチャンスはあるので、慎重に仕分けをしながら、残すものと処分するものに分ける。手にとりながら、いちいち商品化までの苦労を思い出したり、これ今だったらありかもなんて考えたりして、やっぱり作業は遅々として進まず。
出張や旅先で手に入れたモノもたくさんある。ロンドン、ポートランド、ニューヨーク、LAのエースホテルの便箋、封筒、鉛筆などは、いろいろな箱に散っていたのをひとつにまとめた。はじめてエースホテルに泊まったとき、部屋にある便箋がかっこいいなあと思って持ち帰ったんだけど、エースホテルの京都では、それをMD用紙で作っていると思うと感慨深い。
思いがけず探し物に出会えたりもする。箱の下の方で埋もれてくしゃくしゃになったコットンバッグの中から、ここ1年くらい行方不明だったエアポートエディションのパスポートサイズを見つけた。表紙の「HAVE A NICE TRIP」の文字はだいぶかすれているけど、エアポートのオープン時からずっと使っていて愛着があるノートだったし、ペンホルダーには個人的にも思い入れが強い映画「ON THE ROAD」が日本で公開される際にコラボレーションで作ったブラスペンシルが差し込まれていから、見つかってほんとに嬉しかった(ちなみにエアポートエディションは現在、オンラインショップでも販売中です)。そんなこんなで、作業はあまりはかどらず、途中で投げ出すようにこの日は帰ることにした。
最後に、資料の中に埋まっていたのを救出し、久しぶりに読み返した本からの引用を。書店人の矜持を綴った言葉ではあるけれど、本をトラベラーズノートとそれにまつわる道具に、書店人をトラベラーズにかかわる全スタッフに置き換えれば、そのまま僕らの仕事の意義を示す言葉になる。
「本の真の実質は、思想にある。書店が売るものは、情報であり、霊感であり、人とのかかわりあいである。本を売ることは、永久に伝わる一連の波紋を起こすことである。書店は、書棚に魔法を満たすことも、嵐を吹かせることもできる。書店人は、人々を日々の抑圧から解き放し、楽しみ、希望、知識を人々に贈るのである。書店人が、特別な人間でなくてなんであろう」