2022年1月17日

苦くて甘いラブロマンス映画?

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トラベラーズファクトリー京都のスタッフKくんより、こんなメールが届いた。
 
「バレンタインがもう少しでやってきますね。バレンタインといったらテーマは『愛』。おすすめのラブロマンス映画のリストを作成してお客様に配布してみるのはどうでしょうか。僕の頭にあるラブロマンス映画を幾つか添付します。飯島さんのイメージするラブロマンス映画も聞きたいです! ご検討よろしくお願い致します」
 
ラブロマンス映画かあ。別にラブロマンス映画に詳しい訳じゃないし、だいたい女性スタッフの方が圧倒的に多いのに、52歳とおじさんと店舗唯一の男性スタッフKがラブロマンス映画を選ぶのは、どうなんだろう。なんだか痛々しくないかな。そんなことを思いながらもラブロマンス映画をいくつかあげて、考えてみるよと返事を返した。
 
ラブロマンス映画といえば、と記憶を巡らせまず頭に浮かんだのは『(500)日のサマー』。
 
主人公のトムは、ホールマークみたいなグリーティングカードを作る会社で働く地味で冴えない青年(正月に妄想したトラベラーズムービーみたいだな)。ある日トムは、新しく会社に入ってきた女性、サマーとエレベーターで一緒になる。トムがヘッドフォンでザ・スミスを聴いていると、漏れた音を聴いたサマーが「私もスミスが好きよ」と言いながら、エレベーターを出ていく。トムは、もうそれだけで「運命だ」と呟き恋に落ちてしまう。ザ・スミスが好きな僕は冒頭のこのシーンで、ぐっと心を掴まれてしまう。
 
その後どんどんサマーを好きになっていくトムと、掴みどころがないサマーとの恋愛はすれ違いながら進んでいく。そのすれ違いの原因は、男の独りよがりの妄想と女性が思う現実とのギャップでもあり、男の妄想が膨らむほどにギャップは広がっていく。夢見がちに妄想を膨らませがちな世の男達は、主人公のぶざまな姿を笑いながらも、僕と同じように身につまされるような思いを感じるはずだ。
 
自分の少ない恋愛経験を振り返ってみたって、最初のきっかけはもしかしたらあの人は僕のことを好きなんじゃないかな、という勘違いの妄想から始まったような気がするし、「私もスミスが好きよ」と言われて、それだけで恋に落ちてしまう主人公を僕は嘲笑うことなんてできない。
 
たまたま昨日、アマゾン・プライムで「あなたが興味ありそうな映画」に表示されて観た映画も男の妄想と女性の現実とのギャップを描いたラブロマンス映画だった。その映画『モダンライフ・イズ・ラビッシュ』の主人公とヒロインとの出会いのシーンも『(500)日のサマー』にちょっと似ている。
 
売れないミュージシャンの主人公がレコード屋をぶらぶらしていると、イギリスのバンド、ブラーのベスト盤のCDを手に取って眺める女性を見つける。すると主人公は「ベスト盤を買うなんてだめだ」と彼女に話かけ、ブラーを理解しようと思うなら、まずは1stアルバムから順をたどって聴くべきだと言うようなウンチクを長々を語る。
 
彼女は主人公の押し付けがましい話を聞くと、ブラーのアルバムはすでに全部持っているけど、ベスト盤にボーナストラックとして収録されている未発表のライブテイクを聴くために買うと答える。主人公は、分かりきったことを偉そうに語ってしまったことに気づいて、所在なさげに「うざいこと言ってごめんね。ブラーの大ファンで」と言う。彼女は「私もよ」と優しい笑顔で答える。そして、主人公は当然のように恋に落ちる。
 
この映画の場合は、出会いの場面からそうだけどストーリー全体が夢見がちな男の妄想みたいで、その身勝手ぶりが過ぎるところもあるのだけど、主人公の音楽の偏愛ぶり、特にデジタル配信を嫌い、レコードやCDのように手に触れることができるモノとしてパッケージされた音楽にこだわる姿は、トラベラーズ的な共感を抱くことができる。
 
だけど見ていて何より感動したのは、クライマックスのシーンで、アナログを愛する主人公が彼らしく想いを伝えるための道具としてトラベラーズカンパニーの製品を使っていたこと。観るまでそのことをまったく知らなかったから、最初にチラリと出てきたとき、似てるかなと思ってさらにその後、はっきり分かるように登場すると、なんだかいきなり家族や友人がテレビに出たような、くすぐったい気持ちになった。
 
『モダンライフ・イズ・ラビッシュ』は、アマゾンのプライム会員なら無料で観れるので、興味のある方は観てみてください。>>
  
ちなみにKくんへの返信には、「(500)日のサマー」の他に「エリザベスタウン」と「はじまりのうた」をラブロマンス映画としてあげたんだけど、後者の2つも恋愛においては男の都合のよい妄想を描いた映画かもしれないと思うようになってきた。
 
ラブロマンスでも女性監督のソフィア・コッポラによる「ロスト・イン・トランスレーション」は、もっと現実的で少し冷めた視点で描かれているし、この前観た「愛がなんだ」は、報われない片思いの愛を報われないままを描いている(こっちは監督は男だけど原作が女性)。
 
男だけで選ぶラブロマンス映画は、女性からみると男の身勝手で独りよがりな妄想映画ばっかりになりそうで、リストも痛々しい残念なものになりそうな気がしてきた。Kくん、勝手にメールを公開して申し訳ないけど、やっぱり女性にも聞いてみた方がいいと思うよ。
 
ただ今、トラベラーズファクトリーではコーヒー月間ということでコーヒー豆をいろいろ揃えています。深煎り豆が好きな僕は、苦くてほのかに甘みを感じる深煎りのコーヒーを飲みながら、甘くて苦いラブロマンス映画を観ました。みなさまもお好みのコーヒーを飲みながら、映画を観て過ごす「COFFEE TABLE TRIP」はいかがでしょうか。
 
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