2022年3月14日

New Line Up

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詩人の長田弘氏による『読書からはじまる』を読んだ。本の存在意義をさまざまな角度から優しく語る素晴らしいエッセイの中の一節を少し長いけれど引用したい。
 
「その物語作者はこう書いています。『あなたの街で、道に白いチョークで画かれた白いドアを見つければいいのです。そしたら、その白いドアを開けて、その向こうの世界へ入ってゆけばいいのです。』本というものは、その物語作者のいう『道に白いチョークで画かれた白いドア』です。どこにもう一つの世界へのドアがあるかを指さす本が、友人としての本です。<中略>ここからもう一つの時間がある。ここをくぐってゆくと、そのむこうにもう一つの時間がある。今は忘れていて、しかも忘れていることにさえ気づいてもいない。けれども、そこにずっとある。そこに大事なものがあると、語りかけてくる。子供の本などは、それが仕事といってもいいかもしれません」
 
先週、トラベラーズノートの新しいラインアップをサイトで発表したのだけど、この文章を読みながら、新商品はまさにここでいう「友人としての本」のような存在になってほしくて、作っているのだということにあらためて気づいた。
 
例えば、トラベラーズホテルはトラベラーズカンパニーが夢見る架空のホテルなんだけど、その実態は霧がかかったようにぼんやりしている。その霧を晴らして、具体的なイメージを作るのはあくまでそのプロダクトを手に取った使い手の方々だと考えている。ボックスを開き、トラベラーズノートとともに、ステッカーやチャーム、鉛筆などを手にすることで、かつての旅先のホテルの記憶を思い出す。
 
自分の心の中にずっとあり、だけど忘れかけていた旅の記憶が蘇ることで、その旅をもう一度味わい、今の視点で見つめ直すことで、そこから自分にとっての理想のホテルを頭の中で再構築していく。もしかしたら、それは理想の住まいかもしれないし、一人の時間の過ごし方や心地よい眠りを考えることかもしれない。そうやって、トラベラーズホテルがそれぞれの想像力を刺激し、物語を膨らませるきっかけになってほしいと思っている。
 
この新しいトラベラーズノートは、例えば予告編だけが作られた映画みたいなものなのかもしれない。予告編に触れることをきっかけに、心の奥の記憶を掬い上げ、妄想を膨らませていく。そして、手に取ったノートの使い手の方々は映画本編の物語を編んでいくようにノートにかつての旅や理想の旅を描いていく。表紙のデザインは映画のオープニングタイトルで、白い紙面はまだ何も焼き付いていないフィルムだ。本当だったら、ウェス・アンダーソンとかジム・ジャームッシュあたりに、それぞれの予告編のような映像を作ってもらいたかったけど、残念ながらそんな予算はないので、想像の中でイメージを含ませていただきたい。
 
予告編で気になる映画を見つけると、チラシを持って帰るはずだ。トラベラーズホテルの映画のチラシは、どんなものだろうかと想像してみる。ロゴとともに、ホテルのラゲッジラベルが旅の証のようにたくさん貼られた革のトランクの写真がレイアウトされ、「日常に疲れ、どこか遠くへ旅をしたくなったら、トラベラーズホテルへお越しください」とコピーが記されている。トラベラーズエアラインのチラシには、その飛行機が空港に止まっていて、これからまさに離陸しようとする写真がいいかな。トラベラーズトレインはリフィルの表紙が映画のチラシにもぴったりかもしれない。トラベラーズレコードは、専属DJがレコードを手にして、これから流そうとするところ。これは映画本編の重要なシーンでもある...なんてことを想像するのは楽しい。
 
さらに音楽が好きな僕にとって、トラベラーズレコードがどんなレーベルなのかを考えるだけでも楽しいし、その専属DJが流すプレイリストはどんな曲なのかと想像が膨らむ。トラベラーズレコードは、キャラバンのように国境を超えて旅をするレーベルだから、それぞれの国でのメジャーレーベルやラジオ局と軋轢を生むのかもしれない。そうすると既得権を持つ金儲け主義のメジャーと音楽を純粋に愛してリスナーの味方であろうとするインディーズの闘いみたいなものが物語の主軸になるのもいいな。
 
トラベラーズレコードのメンバーは、売れないミュージシャン崩れのリーダーに、グラフィティアーティスト上がりのパンクなデザイナー、人見知りの音楽オタクなんだけどレコープレイヤーの前に立つと人格が変わる専属DJ、気難しい職人気質のミキサー、さらにちょっとおちゃらけてるけどムードメーカーの運転手といった感じで、特攻野郎Aチームのみたいに個性的なならずもの集団といった感じかな。映画といえば、サウンドトラックも重要だ。ということで、それぞれのサウンドトラックを作ってみるのも面白そうだなあ。
 
そんなわけで、トラベラーズノートの新しいプロダクト。発売までもう少しありますので、妄想の模様をまた追々アップできればと思います。みなさまもいろいろ想像を膨らませていただけると嬉しいです。
 
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