日記は人に見せるつもりで書く方がいい
まだ会社に入ったばかりの頃。倉庫の片隅に使うあてのないまま置かれていた古いサンプルの山から、日記帳をもらった。社会人になり、地方営業所に配属になって、新しい場所で新しい暮らしをはじめたばかりということもあって、日記でもつけてみようと思ったのだ。
日記帳は、表紙にはウィリアムモリスの壁紙のようなデザインがプリントされたハードカバーの上製本で、サック箱に収められていた。ついこの間まで、世の中に日記を書くための専用の商品が存在することすら認識していなかった僕は、まるで上質な本のような作りの日記帳を手にして胸が高鳴った。
今もそうだけど、当時も日記帳は会社の主力商品のひとつで、当時は若者の向けの「ヤング日記」と大人向けの「アダルト日記」の2つのカテゴリーで、それぞれ20種類くらいラインアップされ、新商品も毎年リリースされていた。僕が手に入れた日記帳は、「アダルト日記」のラインアップで、その淫靡な名前にもちょっとだけ興奮した。
その後、日記を書くという習慣が続いたかというと、そうはならずわずか1ヶ月くらいでやめてしまった。だけど、書くのが面倒になったのが理由ではない。もともと本を読むのが好きだったし、文章を書くことだって嫌いじゃなかった僕は、けっこう真面目に日記を書いていた。その日記帳は、1日にたっぷり1ページ分書くことができることもあって、仕事で怒られたこととか、日々のちょっとした事件に思うこと、さらに気になっていた女の子のことも正直に書いていた。
1ヶ月くらい書き続けて、あるときふと思い立ち、最初のページからじっくり読み返してみると、あまりの恥ずかしさに、結局きちんと読み返すことができなかった。恥ずかしくなったのは、表現が稚拙だったり、誤字脱字があったりすることもあるけれど、それ以上に心の中に思っていたことが文字になって目の前にあるのが、たまらなく気恥ずかしく、きまりが悪くなったのだ。
大御所小説家の全集のような豪華な作りの日記帳が、さらにその恥ずかしさを助長した。ちょっと例えが悪いかもしれないけど、自分の裸を毎日いろんな角度から撮影した写真が何枚も載っている写真集を目の前に突き出されたようないたたまれない気分になったのだ。それから僕はすべてなかったことにしたいと思い、書き終わったページをすべて切り離して、細かくちぎって捨ててしまった。そしてそれ以来、簡単な旅の記録みたいなものは別にして、日記をつけるということをしなくなった。
そんな僕がまた日記と呼べるようなものを書くきっかけになったのは、トラベラーズノートを使うようになったことと、このブログを書くようになったからだった。
このブログは公開することを前提に書いている。ここには嘘を書かないことをモットーにしているけど、知られたくないことはあえて書かないし、自分の心のすべてを曝け出しているわけではない。その分読み返しても、昔の日記を読んだときのようなきまりの悪さみたいなものを感じることはなくなった。全部曝け出す必要なんてないし、そのときの状況を読むことで、そのときの思いは自然に蘇ってくる。要は、僕にとっての日記を続けるこつは、誰にも読まれないことを前提に書くのではなく、誰かに読んでもらいたいと思って書くことだった。
このブログは、実際にどれだけの人が読んでくれているのか分からないけれど、それでも誰かに読んでもらいたくて書いている。それは不特定多数の誰かかもしれないし、ときには特定の誰かに向けて書いていることだってある。いずれにしても誰かに読んでほしいという気持ちがあるから、何年も続けることができた。そうやって書き続けることで、自分の歴史を振り返ることができる記録にもなるし、未来の自分に気づきを与えてくれることもあるし、自分の心を奮い立たせてくれることだってある。
日記を書き続けると、自分の人生が結局1本の線で繋がっている物語のようだと思えることがある。過去のある出来事が、伏線を回収するように今に繋がることもよくあるし、映画の登場人物のように本人のままならない方向へ物語は進んでいく。
インスタグラムを見ると、たくさんの方のトラベラーズノートの紙面を見ることができる。旅の記録に絵日記、コラージュなどさまざまなスタイルのそれらの表現も広義に捉えると日記と言えると思う。それらを見ると、ノートの使い方のアイデアを見つけることができるし、刺激も受ける。ときには、誰かのノートに描かれたおすすめの映画を見ることだってあるし、美味しそうに描かれた食べ物を食べてみることもある。誰かのノートを見ることで、その人の人柄みたいなものを感じることだってある。描いた人は気づかないかもしれないけど、そうやって見えない交流が生まれているのも楽しいと思う。
日記は肩肘張らずに、人に見せる前提で書いた方が続けられると思う。そう言う意味でもトラベラーズノートは日記を書くにもおすすめです。最近僕は、日記を書くにもトラベラーズエアラインのトラベラーズノートを使っています。