日本一周 青森-秋田編
5月5日。時間は15時30分を過ぎたところです。
秋田県の能代という町のカフェでこのブログを書いています。
今朝、青森県の日本海沿岸にある小さな港町の宿を出て、自転車で走って南下し、ここまで来ました。長いあいだ自転車で走りかなり疲れたので、何かありそうなこの町で少し休もうと思いました。
ネットで調べてみると、巴湯という銭湯があるようなので立ち寄ることにしました。歴史を感じる建物に心を踊らせ、中に入ると、番台のおばちゃんと常連客が話す秋田弁が心地よく、鍵付きのロッカーがあるけれど誰も使わずに、備え付けのカゴに服を投げ込んでお風呂に入るような地元の人に愛されている飾らない銭湯でした。
僕も地元の人に混ざり、熱めのお湯に浸かったり、洗い場で休んだりを繰り返して疲れを癒しました。お湯に浸かりながら、ぼーっとしていると、なんだか自分がその町の住民になったような気分になります。もし僕がこの町で生まれ育っていたら、どんな人生を過ごしたのだろう、思わずそんなことを想像してしまいました。
お風呂を出て、駅近くのほとんどシャッターが閉まっている商店街を自転車で走っていると、古い建物をリノベーションした素敵なカフェを見つけたので入ってみることにしました。ずっと自転車を漕ぎ続けてきた足はまだ重く、また湯上がりで喉も乾いていたので、アイスコーヒーを飲みながら、もうすこし休もうと思ったのです。
ここで話を少し戻しますね。
今年のゴールンデンウィークは、久しぶりに行動制限が必要もないとのことで、思い立って、トラベラーズバイクでの日本一周を再開することにしました。日本一周といっても、最初は2014年の夏休みに東京から白河まで走り、その翌年に白河から仙台、さらに2018年に仙台から盛岡、そして、2019年に盛岡から青森までという感じで小刻みで少しずつ進んでいる、いつ終わるのかも分からないのんびりした旅です。今回は青森から秋田まで走ることにしました。
ということで、まずは輪行バッグに自転車を詰めて新幹線で前回の終着地、新青森駅まで向かいました。夕方、新青森駅に着くと、まずはこの日の宿泊地、五所川原まで走りました。それなりに上り坂も下り坂もあったけど、まだ旅は始まったばかりで体力もあるからか、予定よりも早く五所川原に着きました。
日本一周の今までの教訓から、自転車の旅は、距離だけでなく、高低差も大事だと学んでいました。初日の青森から五所川原までのルートは、今回の旅で最も高低差があります。ここをクリアしてしまえば、後はのんびり楽に走れるだろうと思いました。だけど、自転車の旅には高低差だけではない困難があるのを翌日に思い知らされることになります。
五所川原から日本海に抜ける道は、グーグルマップで調べると「ほぼ平坦」。2時間もかからず抜けることができるだろうと思い、朝は喫茶店でゆっくりモーニングいただき、10時に出発しました。しかし、走るのと同時に思いがけない強敵、強風に襲われました。しかも向かい風の強風で、自転車のペダルは、ひどい上り坂のように重く、なかなか進みません。左手に岩木山を臨む絶景なのに、そんなものを楽しむ余裕もなく、ただひたすら苦行のように自転車を進めていきました。
びゅんびゅん吹きつける風を受けながら、そういえばこの辺りは、冬の地吹雪で有名な場所であることを思い出しました。雪が降り積もるなかでこの風が吹いたら、何も見えなくなるだろうな。そんなことを考えながら自転車を漕いでいると、首に巻いていた手拭いが強風に吹き飛ばされていきました。進んできた道をはるか遠くに飛んでいく手拭いを呆然と眺めながら、戻ってまで追いかける気にもなれず、また黙々と自転車を漕ぎ続けました。
どうして僕はこんなことをしているのだろう。日本一周の間に何度か浮かんだフレーズがまた脳裏をよぎりました。終わりが見えないきつい上り坂で汗を流しながら、自転車を押したり、突然大雨に襲われたり、山の中でタイヤがパンクしたりするときには、なんで好き好んでこんなことをしているのだろうという思いに駆られることがあります。だけどそんなときは、ただ淡々と前へ進むことしか解決策はありません。もう勘弁してくれよ、なんて心のなかで泣き言のように叫びながら重いペダルを漕ぎ続けたり、ハンドルを押して歩くしかないのです。
若干のM気質があるせいなのか分かりませんが、後から振り返るとそんな辛い時間こそ良き思い出として心に残っていることも多かったりします。それにそんなことがあっても、来なければよかったなんて思うことはありません。
日本海に着いても風はおさまらず、海に向かって並んでそびえ立つ風力発電の風車は、高速で回っているのが見えます。昼食はコンビニでパンを買ってささっとすませ、休み休み自転車を進めながら、なんとか予約していた宿に着くことができました。本当は途中で、日本海を臨む有名な露天風呂に立ち寄るつもりだったのだけど、そんな時間も体力も残っていませんでした。だけど、宿の畳の上で大の字に横になりながら、旅にいることの充実感に心が満たされているのを感じました。辛いことと楽しいことは紙一重。やっぱり旅は人生みたいだな。そんなことを思いました。
さて、こちらのカフェの居心地が良くて、ずいぶん長居してしまいました。アイスコーヒーも飲み終わったし、足の疲れもだいぶ楽になってきました。グーグルマップで調べてみると、今日の宿まであと18キロ。そろそろ走り始めようと思います。
旅の続きはまた後ほど。